「賭博堕天録 カイジ 24億脱出編 1~26巻」福本伸行著/講談社(選者・中川淳一郎)
「賭博堕天録 カイジ 24億脱出編 1~26巻」福本伸行著
「カイジ」シリーズはバクチにハマるダメ男の伊藤開司の珍道中を描く作品である。本来は活字の本を紹介したいところだが、こちらは漫画で恐縮。とはいえ、紹介せざるを得ない。とにかく面白いからだ。
これまで「カイジ」シリーズは人間の醜さと業の深さを描いてきたが、今回はそれを最大限に展開する内容になっているのだ。前シリーズで貸金業の「帝愛」の御曹司・和也から24億円を見事に獲得したカイジは、中国人のチャンとフィリピン人のマリオとともに、逃亡を開始する。
いかにして帝愛から逃げるか、いかにしてチャンとマリオを日本から脱出させるか、ということに粉骨砕身するさまが描かれるのだが、コレがいいのである。これまでの「カイジ」シリーズも友情的要素はあったのだが、今回の「24億脱出編」はレベルが違う。
日本人であるカイジがなんとしてもフィリピン人と中国人を助けるか、に邁進し、さらにはボケーッとしたマリオをシッカリとしたチャンが支え、なんとか窮地を脱出するハラハラドキドキの展開が続く。本当に息をもつかせぬ大捕物が続き、一切飽きさせることがない漫画なのである。現在26巻まで到達したが、私はKindleで買ってもはや次の巻を買うのを躊躇することがない状態が続き、気付いたら既刊のものはすべて買ってしまっていた。
カイジは20代だが、今回のシリーズについては「友情」が色濃く出ており、30代以降の人にとっても「友達っていいな」と思えることだろう。しかも、友情の相手が中国人とフィリピン人ということもあり、人種・国籍関係なく友情を感じられる展開になっており、漫画としてのカタルシスを存分に感じられるものになっている。
また、本シリーズの魅力をもたらすのは、「登場人物がことごとくバカ」という点である。遠藤勇次ら敵役は賢く狡猾なのだが、カイジの側に立つ人間が本当にバカだらけなのだ。そのバカ軍団がバカなりに知恵を絞って提案をすることが実は後に功を奏するという展開が続き、自分自身のことをバカだと思っている人にとってもカタルシスを感じられる流れが延々続く。コレが「カイジ」の本シリーズを気持ちよく読めるスパイスになっているのかもしれない。
拷問シーンも含め、殺伐とした残酷シーンを見て「カイジ」を読むのをやめた方もいるかもしれないが、このシリーズは本当にオススメだ。私が21世紀になって読んだ漫画でナンバーワンである。 ★★★