心ときめく!馬を深く知る本特集

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「銀色のステイヤー」河﨑秋子著

 まるで走るために生まれてきたかのような美しいフォームを持つ馬。その雄姿や可愛らしさに心奪われる人も多い。くしくも11月10日はエリザベス女王杯。心ときめかす馬についてのアレコレを、本を通して改めて深掘りしてみてはいかが。



「銀色のステイヤー」河﨑秋子著

 北海道の競走馬生産牧場で、幻の3冠馬と呼ばれたシダロングランの血を引く牡馬が誕生した。

 牧場主の菊地俊二は期待を高めるものの、そのやんちゃな気性に加えて一番懐いた牧場従業員が業界内で悪評がたっている綾小路雛子だというのが気にかかる。

 さらに馬主となったのは、亡き夫が残した馬用資金を使うという動機だけで即購入を決めた広瀬夫人。彼女によってシルバーファーンと名付けられたその馬は、二本松調教師や調教助手を務める鉄子、菊地俊基騎手らにも見守られながらすくすくと成長していく。そしてついにデビュー戦の日を迎えたのだが……。

「ともぐい」で第170回直木賞を受賞した著者が、競走馬を取り巻く個性豊かな人々の心情を描いた物語。目の前でレースが行われているかのような臨場感ある描写に引き込まれる。 (KADOKAWA 1870円)

「もうひとつの引退馬伝説」マイクロマガジン引退馬取材班編著

「もうひとつの引退馬伝説」マイクロマガジン引退馬取材班編著

 毎年新しい馬が競走馬としてデビューする一方で、競技から引退する馬も数多くいる。果たして引退後にどんな生活を送っているのか。

 本書は、関係者への取材を通して有名競走馬28頭の引退後の実像に迫ったもの。彼らのセカンドキャリアは、種牡馬、繁殖牝馬、乗馬、誘導馬など多岐にわたる。

 たとえば、イクイノックスは優秀な種牡馬として活躍中で、今でも放牧地で全力疾走を欠かさない元気ぶりを見せている。ほかにも紆余曲折の末に千葉のマーサフォームで気ままに過ごすハルウララ、かつての激しい気性が嘘のようにYogiboのCMで穏やかに寝転ぶ姿を見せたアドマイヤジャパンなども登場。

 写真も盛りだくさんな上、和田竜二騎手や角居勝彦元調教師へのインタビューもあり、ファンにはたまらない一冊となっている。 (マイクロマガジン社 1980円)

「ウマの科学と世界の歴史」リュドヴィク・オルランド著、吉田春美訳

「ウマの科学と世界の歴史」リュドヴィク・オルランド著、吉田春美訳

 ヒトの進化を振り返ったとき、ウマは人類史に大きな影響をもたらしてきた。移動スピードが格段に速くなったのはもちろん、言葉や文化、さらには病原菌まですごい速さで広げ、時には戦いも起こった。かつて米国ではウマインフルエンザの流行時に流通がストップしたがために、経済が瀕死状態に陥ったほどだ。

 本書は、カナダの永久凍土にあった動物の遺骸からDNAを抽出し、それが70万年前に存在したウマだったことを突き止めた著者が、ウマの遺伝的歴史をたどり、家畜化の起源からウマの未来までを考察したもの。

 競走馬のニーズが突出している今、種の多様性は失われつつあり、近親交配による遺伝子疾患も危惧されるという。

 遺伝子操作はどこまで許されるのか、ヒトとウマのこれからの関係性についても考えさせられる。 (河出書房新社 2970円)

「私の馬」川村元気著

「私の馬」川村元気著

 造船会社で事務員として働いてきた瀬戸口優子は、国道で黒い馬と出会った。馬運車から逃げ出した元競走馬らしい。馬と目が合った優子は、漆黒の瞳に吸い込まれるような感覚に陥った。

 後日乗馬クラブを訪ねた優子は、その馬に乗って心を通わせることができた喜びを体感する。しかし何度か通ううち、同じ馬を気に入っている女性に遭遇し、彼女にその馬を買われたらもう乗ることができないのだという事実を知った。

 そんなとき、頭に浮かんだのは労働組合でズサンに管理されている金庫の金。一時的に借りれば、あの馬が買える。そう思った優子は、馬を手に入れるためについに横領に手を染めてしまう……。

 馬に魅せられたひとりの女性の運命を描いた物語。言葉を介さない馬への愛にハマっていく心境がリアルに描かれている。 (新潮社 1870円)

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