ノーベル文学賞よりも一足早く!海外文学特集

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 ノーベル文学賞の受賞者が発表されるこの時期、書店も受賞作をはじめ、多くの海外文学で賑わう。今週は、本家のノーベル文学賞よりも一足早く、普段はなかなか海外文学に目が向かない読者にも喜んでもらえるようなお薦めの海外文学を紹介する。



「喉に棲むあるひとりの幽霊」デーリン・ニグリオファ著 吉田育未訳

 2012年、「わたし」は毎日、家事と2人の幼子の育児に明け暮れている。母乳バンクに届けるため、搾乳器で母乳をためているときだけが自分の時間だ。

 そんなとき、わたしは「アート・オイレリーの哀歌」が印刷された紙の束を手に取り、作者のアイリーン・ドブ・ニコネルに「わたしの喉を明け渡し」、しばらく憑依してもらう。アイリーンは詩人で、1773年、殺害された夫アートの血をすくって飲みながら、彼への愛と欲望、宿敵への怒りと復讐心を歌った。それがクイネだ。

 ある詩句を目にして、彼女も私と同じように3番目の子を宿していることを知る。その子も生まれ、ますます終わりのない家事と育児に追われる中、わたしはアイリーンのクイネを翻訳しようと思い立ち、図書館で彼女の資料を渉猟する。

 18世紀のクイネとその作者、そして自身も詩人であるアイルランド人著者の人生が交錯しながら進む長編。

(作品社 2970円)

「青春万歳」王蒙著 李海、堤一直訳

「青春万歳」王蒙著 李海、堤一直訳

 1934年生まれの現代中国文学界の重鎮が19歳で執筆した処女作。旧中国から新中国への歴史的転換期に青春時代を過ごす女子高校生たちを主人公に描く群像小説。

 1952年の夏休み、北京女子7高の生徒たちは郊外でのキャンプに参加。連日、朝から晩まで楽しい行事が続く。その晩は、キャンプファイアが予定されていたが、鄭波は病弱な母親に呼び戻され、家に帰らなくてはならなくなった。

 鄭波の親友・楊薔雲は、キャンプファイアの場で去年の夏に知り合った男子65高の張世群と再会。薔雲は、皆の前で朗読した詩をほめてくれた世群の手を思わず取る。テント内では、学級委員長の周小玲が、前期試験の成績優秀者に学校からメダルが授与されることになったと話す。

 9月、新学年が始まり、鄭波らは3年生に進級。生徒大会が開かれ、小玲の話通りメダルの授与式が行われるが、鄭波は受け取ることができなかった。

(潮出版社 2750円)

「邪悪なる大蛇」ピエール・ルメートル著 橘明美、荷見明子訳

「邪悪なる大蛇」ピエール・ルメートル著 橘明美、荷見明子訳

 1985年5月5日の夜、63歳のマティルドは郊外からパリに戻る途中、渋滞に巻き込まれる。このままでは仕事に間に合わない。今までそんなことは一度もなかったのに。奇跡的に渋滞が解消し、高級住宅地に到着すると、時間通りに犬連れの男性が通りかかる。彼女は取り出したサイレンサー付き44口径マグナムで男の股間を打ち抜き、首にとどめを、ついでに犬の頭も吹き飛ばす。元レジスタンス組織の戦士マティルドは、夫の死後、仲間のアンリに誘われスナイパーとしてこれまで多くの標的をあの世に送ってきた。今回の標的はフランスを代表する実業家だ。

 ニュースを見たアンリは、マティルドらしからぬ仕事ぶりに疑問を抱く。一方、マティルドは仕事を終えるたびセーヌ川に捨ててきたはずの拳銃が、なぜか家のあちこちにあることに気づくが、なぜだか分からない。

 名手が認知症を患った凄腕の殺し屋の暴走を描く徹夜必至のミステリー。

(文藝春秋 3300円)

「とるに足りない細部」アダニーヤ・シブリー著 山本薫訳

「とるに足りない細部」アダニーヤ・シブリー著 山本薫訳

 1949年8月9日、イスラエル軍司令官の「彼」は、部隊を率いてネゲブ砂漠のエジプトとの停戦ラインに到着。宿営地を作り、連日、砂漠に分け入り偵察を続ける。12日早朝、砂漠の泉で遭遇したアラブ人の一団を皆殺しにして、生き残っていたベドウィンの少女を宿営地に連れ帰る。少女は兵士らに慰みものにされ、彼自身も少女をレイプ。翌朝、少女を砂漠に連れ出し射殺して埋める。

 半世紀以上が過ぎたある日、パレスチナ人の「私」は記事で事件について知る。事件が四半世紀前の自分の誕生日に起きたことを知った私は、友人の身分証を借りて自宅があるヨルダン川西岸地区の検問所を通り抜け、イスラエル領内にある軍事博物館や軍のアーカイブセンターを目指す。記事はイスラエル兵側の証言をもとに書かれており、沈黙させられた少女の物語を探し出すためだ。

 世界的に評価される現代パレスチナ文学の旗手による長編小説。

(河出書房新社 2200円)

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