徹夜必至!思い切り没頭できるミステリー本特集
「罪名、一万年愛す」吉田修一著
暗いニュースばかりの世の中。不条理な世界のあれこれを何とかしたくとも、非力な自分にはどうすることもできず、それがまたイライラを募らせる。そんなやりきれない思いに効くのが重厚なミステリーだ。思い切り没頭して、心をリセットしてまた新しい一日に向かおう。
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「罪名、一万年愛す」吉田修一著
探偵の遠刈田は、資産家の梅田壮吾の孫・豊大から、祖父が所有する「一万年愛す」という宝石を探して欲しいと依頼される。隠居して個人所有する長崎の島の別荘で暮らす壮吾の世話をする家政婦から、旦那さまが毎夜「一万年愛す」を探していると連絡が入ったという。
しかし、家族がたずねると、壮吾はそんな宝石の存在は知らないと話したらしい。認知症の発症を疑った豊大だが、父の一雄は思春期に、壮吾がその宝石について記したメモを見た記憶があるという。調べると、かつて「一万年愛す」という名のルビーのペンダントがオークションにかけられ、現在の価格で35億円で落札されたことが判明。依頼を受けた遠刈田は、島で行われる壮吾の米寿の祝いに参加。しかし、翌朝、壮吾が島から消えてしまう。見つかった遺言書と書かれた封筒には「私の遺言書は、昨晩の私が持っている」と書かれた便箋が入っていた。
人気作家が初めて挑む長編ミステリー。
(KADOKAWA 1980円)
「遊廓島心中譚」霜月流著
「遊廓島心中譚」霜月流著
文久3年5月、18歳の伊佐は神奈川奉行所の粟菱から、父の繁蔵に殺しの嫌疑がかけられていると告げられる。粟菱によると、繁蔵は幕府が生麦事件の償金として英国に支払うために用意した金箱を強奪しようと尊王攘夷を志す浪士らと襲い、その騒動の中、娘を殺め、その首を大鋸で切り落として持ち去ったという。その娘は前年に繁蔵が金を借りた高利貸の娘で、いずれも証拠がそろっているという。
騒ぎの最中、繁蔵の遺体が大川で見つかる。目撃した人の話によると、女が舟で体を売る「船饅頭」と呼ばれる舟が突然燃え出し、繁蔵はその焼けた舟に乗っていたらしい。一緒にいた女の行方は分からない。
遺体から「岩亀楼 潮騒」と書かれた鑑札が出てくる。岩亀楼は横浜・港崎遊郭の妓楼で、鑑札は異人相手の遊女「綿羊娘」が持つものだ。伊佐は父の汚名をそそぐために、横浜で綿羊娘になることに。
第70回江戸川乱歩賞受賞の本格ミステリー。
(講談社 1980円)
「ウォッチメイカーの罠」ジェフリー・ディーヴァー著 池田真紀子訳
「ウォッチメイカーの罠」ジェフリー・ディーヴァー著 池田真紀子訳
捜査中の事故で四肢麻痺となったライムだが、明晰な頭脳を駆使して現在もニューヨーク市警の科学捜査顧問を務める。
ライムが市の都市整備建設局からインフラ整備関連の資料が持ち去られた事件を捜査中、高層ビルの建設現場でタワークレーンを転倒させるテロが発生。犯人は市長に低所得者向け住宅を建設するために市有地の所有権を非営利団体に移転するよう要求。移転が完了するまで24時間ごとにほかのタワークレーンを転倒させると脅迫してくる。
現場に急行したライムの妻・アメリアが、クレーンの部品を回収するために地下に降りると、作業員が倒れており、彼女もその場で意識を失う。
同じころ、一人のバードウォッチャーが双眼鏡を鳥ではなくライムの自宅に向けていた。時計師(ウォッチメイカー)の異名を持つその男・ヘイルはライムの命を奪うため周到な計画を進めていた。
天才科学捜査官と天才犯罪プランナーの戦いを描く大人気リンカーン・ライムシリーズ最新刊。
(文藝春秋 3520円)
「鑑定」山田宗樹著
「鑑定」山田宗樹著
精神科医の葛西は、検察の依頼で被疑者の犬崎の精神鑑定を行う。市長選で当選を決めた候補者にガソリンをかけて火をつけた犬崎は、その動機を被害者が「夢の国に相応しくないから」「果たすべき役割を果たしただけ」と供述し、罪悪感は皆無だった。
鑑定が続く中、犬崎の弁護人・玉城が葛西を訪ねてくる。玉城によると、全国で発生した傷害や殺人事件のうち、被疑者の供述に夢の国という言葉が登場するケースが2年前から急増。それらの被疑者は、エモーション・コントローラーの常用者で、犬崎もそうだという。
通称エモコンと呼ばれるその機器は、感情を機械的に操作する医療機器の家庭版で、メーカーの発表では成人の2割が使用しているという。
半信半疑の葛西だが、次の面談日に現れた犬崎の変貌ぶりに驚き、エモコンに疑問を募らせる。
人の心の奥深くに眠る暗い欲望を覚醒させる機器によって混乱する近未来を描いた問題作。
(角川春樹事務所 1870円)