「国家は葛藤する」池田清彦、内田樹 著/ビジネス社(選者:佐高信)
若手学者や東大卒業生をリクルートする統一教会の手練手管
「国家は葛藤する」池田清彦、内田樹 著/ビジネス社
1947年生まれで山梨大学や早稲田大学の教授をした生物学者の池田が79年に山梨大の講師になって間もなく、統一教会から電話がかかってきた。
「先生、今度韓国でセミナーをやるんで来てくれませんか?」
当時、講演依頼などなかった池田に続ける。
「薄謝ですけど講演料は20万円出します。交通費も宿泊代も全部持ちますから」
20万円はそのころの池田の1カ月分の給料と同じくらいだった。要するに広告塔になりそうな若い学者をリクルートしていたのだろう。そうした誘いが何度も来た。しかし、池田は絶対に怪しいと思い、「忙しいから」と言って全部断った。すると来なくなったが、池田の友だちの何人かにもそんな誘いが来たという。
池田の告白に内田も応える。
「僕は1975年の卒業なんですけど、その年に東大の卒業生全員のところに『アメリカ3週間旅行無料ご招待』というのが来ましたね」
オブリゲーション(義務)は「帰国してから一度報告会に顔を出していただきたい。それだけ。他に一切義務はありません」だった。
内田の友人では参加者が1人だけいた。ただ、彼もその後に統一教会の信者になったわけではないと思う、と内田は語っている。
「統一教会はほんとうにお金があったんですね」という内田の述懐に、池田は「結局、こうしたお金は、安倍元首相を殺した山上徹也のお母さんみたいな貧乏人から集められたんだよな」と答えている。
11月2日に私はXで、国民民主党の玉木雄一郎は統一教会の機関紙とも言うべき「世界日報」の元社長から寄付を受けていたし、同紙のインタビューに応じている統一教会シンパだと発信した。それに120万ものインプレッションがあったが、一番驚かれたのは、統一教会が自衛隊に働きかけてクーデターを起こそうとしていたと指摘したことだろう。ネタ元は、私が前回このコラムで取り上げた統一教会の元広報部長の証言である。「情報は正確です。私たちが情報漏れを避けながら真剣に取り組んでいるのに、困った男が出てくるんです。自衛隊工作は、おおっぴらにはできないことなんです」と大江益夫という広報部長は語っている。
比例での絶対得票率が2割しかない自民党が議席を半数近く占め、統一教会と密着してこの国の政治を歪めている。 ★★半