「Z世代のアメリカ」三牧聖子著/NHK出版新書(選者:稲垣えみ子)

公開日: 更新日:

トランプ支持を紐解く冷静な視線にハッとさせられる

「Z世代のアメリカ」三牧聖子著/NHK出版新書

 アメリカ大統領に再びトランプ氏! 一体どうなっちゃうのと思わないわけじゃないが、不安とは結局「わからない」から来るのであり、今回の場合で言えば、彼の地の民はどーしてあんな「とんでも男」を支持するのかってことが最大の不気味さのモトなわけで、その意味では私、それほどの不安はない。それはこの本を読んでいたから。今のアメリカはどのような地点にいるのかを冷静な視点から見せてもらったから。読んだのは選挙前だが今再び読み返し、小さくとも自分がすべきことを考える力をもらっている。

 個人的にハッとさせられたのは、以下の2点。

 まずトランプ氏といえば「アメリカを再び偉大に」というマッチョなスローガンで知られるわけだが、その中身は、イメージとは逆の、もうマッチョじゃいられないアメリカだ。もはやアメリカは、世界の安全と福利に責任を持つ「特別な国」であることに耐えられない。だって他国の軍を支援し国境を守りインフラを整備している間に、気づけば足元はボロボロで中間層の多くが貧困層に転落。もう、よそさんの面倒見てる場合じゃない! フツウの国に戻りたい!--それがトランプ氏の政策の中心思想である。ある意味敗北宣言。

 確かに言われてみれば、そうなのだ。私自身、アメリカはおせっかいで独善的と思う一方で、世界の狼藉者が何かやらかすとアメリカが何とかしてくれると信じていた。そしてアメリカはその期待をそれなりに背負い、その結果が今の困窮だとしたら……ごめんよアメリカ。その困窮した人々がトランプ氏を支えているなら、とやかく言う権利が自分にあるはずもない。

 もう一点は、ロシアのウクライナ侵攻以来、西側が強調している「自由VS専制」という図式の欺瞞性だ。過去20年間、アメリカはテロとの戦いで民間人を含む90万人前後の犠牲者(米兵は7000人)を出したが国民の多くは無関心。理由の一つが、オバマ氏が進めたドローン攻撃による「戦争の人道化」である。だがその内実は、誤爆を織り込んだ負担感のない殺戮であり、巻き添えとなった現地の市民には何の補償もない。人種により命の価値にあからさまに差をつける「正義」は、今のイスラエルと全く同じだ。

 兎にも角にも、これまでのやり方は完全に行き詰まっている。トランプ氏が選ばれようがどうしようが我ら自身が変わらねばならない。で、どう変わるのか? 肝心なのはそこだ。 ★★★

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    相撲協会の逆鱗に触れた白鵬のメディア工作…イジメ黙認と隠蔽、変わらぬ傲慢ぶりの波紋と今後

  2. 2

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  3. 3

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 4

    《2025年に日本を出ます》…團十郎&占い師「突然ですが占ってもいいですか?」で"意味深トーク"の後味の悪さ

  5. 5

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  1. 6

    中居正広の女性トラブルで元女優・若林志穂さん怒り再燃!大物ミュージシャン「N」に向けられる《私は一歩も引きません》宣言

  2. 7

    結局《何をやってもキムタク》が功を奏した? 中居正広の騒動で最後に笑いそうな木村拓哉と工藤静香

  3. 8

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  4. 9

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  5. 10

    高校サッカーV前橋育英からJ入りゼロのなぜ? 英プレミアの三笘薫が優良モデルケース