「新版 原発崩壊」樋口健二著
「新版 原発崩壊」樋口健二著
2011年に起きた福島第1原発事故で多くの被害者を出し、日本は原発廃炉に舵を切ったはずなのに、自民党政権は何事もなかったかのように原発回帰に動き出している。
フォトジャーナリストの著者は、国内で原発の建設が盛んになった1970年代から、原発で働く下請け労働者の放射線被曝の実態を取材し、告発してきた。本書は、日本の原発回帰への現状を危惧する著者が、改めて原発の是非を世に問う代表作の新版。
著者が原発に深く関わるようになったのは、日本初の原発被曝裁判を大阪地裁に提訴した岩佐嘉寿幸さん(故人)との出会いがきっかけだった。
岩佐さんは、昭和46(1971)年に定期検査中の敦賀原発での作業中に右ひざをパイプや床につけて被曝。後にも先にも原発での作業はこの1回、たった2時間半だけだった。
しかし、8日後に高熱と倦怠感に襲われ、以後働けなくなった。病院を転々としたが治らず、すがりつくように訪ねた大学病院でようやく「放射性皮膚炎」と診断され、提訴した。
国会でも問題になったが、日本原電敦賀原発は権威ある御用学者を起用して特別調査委員会を編成し、被曝の事実なしと政治判断を下す。
最高裁まで17年かかった法廷闘争もすべて全面棄却で敗訴が決定。生前の岩佐さんは著者の取材に「日本には民主主義も人権に対するやさしさもないことをいやというほど思い知らされた」と語っている。
ほかにも、同じく敦賀原発で除染作業などに従事した森川勇さんや、高校卒業後に浜岡原発関連の下請け会社に入社して29歳で白血病で亡くなった嶋橋伸之さんの母親・美智子さんら、原発被曝によって人生をめちゃくちゃにされた多くの下請け労働者や、その遺族らを取材。
著者はそうした取材を通し、「原発の宿命は、人間の手作業をなくして一日たりとも動かないところにある」と結論。原発は「日常的に被曝者を生み出す装置」だと警告する。
原発労働者たちは実際にどのような環境で働いているのか。定期検査中の敦賀原発の炉心内にまで入り込み、その姿をとらえた写真もある。
その写真からは、目に見えない放射線の不気味さまで伝わってくる。過酷な現場の様子や、そこで実際に働く労働者たちのリアルな姿をとらえた写真は当時、世界的なスクープとなったそうだ。後にも先にも、原発の放射線管理区域内での労働を撮った写真はないという。
さらに、美浜原発のすぐ近くで海水浴をする人々や、大規模な自然破壊の末に完成に向けて急ピッチで工事が進む建設中の大飯原発、柏崎刈羽原発の建設反対運動、そして1999年の東海村JCOによる国内初の臨界事故や、記憶にも新しい福島第1原発事故まで。
下請け労働者や地元住民らに寄り添った丁寧な取材とリアルな写真に触れ、日本人はいま一度、原発について考えてみなければならないとの思いを強くする。
(現代思潮新社 3080円)