「新・四季彩々」星賢孝著
「新・四季彩々」星賢孝著
尾瀬を源流とする只見川は、福島県の奥会津を貫き、会津盆地で阿賀川と合流して、日本海に注ぐ。その只見川に沿って敷設された鉄道「只見線」の最大の魅力は、車窓に広がる四季折々の絶景だ。
しかし、只見線は2011年の豪雨水害で4カ所の鉄橋が被災し一部が不通となった。地方ローカル線の多くが被災が原因で廃線への道をたどってきたが、只見線は22年10月に奇跡の完全復活を遂げた。
本書は、これまで30年以上にわたって、奥会津と只見線だけを撮影してきた「郷土写真家」による再開通記念の最新作品集。
春、只見線の沿線は満開の桜に彩られる。まるで桜のトンネルの中を進むような「月光寺裏橋梁」(郷戸~会津柳津)をはじめ、行く先々で乗客を歓迎するかのように桜の花が出迎えてくれる。
その光景は春らんまんだが、遠くにそびえる飯豊山はまだすっぽりと雪に覆われたままだ。
只見川にせり出すように育った木々の枝にも淡い新緑が萌え出すころ、穏やかに流れるその水面は鏡のように周囲の景色を映し出す。
「第一只見川橋梁」(会津桧原~会津西方)では、美しい曲線を描くアーチ橋が水鏡に映って大きな弧をつくり出し、その上を2両編成の車両が進む風景は、まるでファンタジーの世界のようだ。
只見川の穏やかな流れとは対照的に、雪解け水だろうか、阿賀川の流れはごうごうと音が聞こえてくるほど荒々しい。「宮川橋梁」(会津高田~会津本郷)では、その水面近くを夕日に照らされながら進む車両の姿が何とも頼もしい。
そんな春の光景にはじまり、季節の移ろいとともに変化する只見線と奥会津のさまざまな表情をカメラは追っていく。
夏は、只見川の川面に霧が立ち込め、幻想的な風景をつくり出す。霧に包まれた「霧幻峡」(早戸~会津水沼)を走る只見線、さらに厚い雲の切れ目から差し込む金色の光芒に照らされた山々を背景に、薄靄の中を鈍く光る車両が進む「第二只見川橋梁」(会津西方~会津宮下)を俯瞰した作品など、まさに年間300日は只見線の撮影に出かけるという著者だからこそ撮影できた絶景が並ぶ。
山々を縫うように走る只見線の秋の紅葉の美しさは言わずもがな。「第三只見川橋梁」(早戸~会津宮下)で撮影された、まさに錦秋という言葉がぴったりな、あらゆる暖色系の色を集めた洪水の中を進む姿をとらえた作品があるかと思えば、収穫の時季を迎えた一面黄金色の田んぼのじゅうたんの中をすべるように進む(根岸~会津高田)姿をとらえた作品もある。
そして只見線の美の真骨頂は冬の景色だと著者は言う。そう四季折々、奥会津はすべてが美しいのだ。
姉妹本の「会津人が書いた 只見線各駅物語」(鈴木信幸著、言視舎=2420円)では、全38駅の秘められた物語が会津出身者の著者ならではの視点でつづられる。あわせて読めば、その土地を訪れたような気持ちになること、間違いないだろう。
(言視舎 2750円)