「笑いで歴史学を変える方法」」池田さなえ著
「笑いで歴史学を変える方法」」池田さなえ著
「大学で歴史を学ぶ学生の多くは、歴史は好きだが『歴史学』は好きではないということを私たちはもっと直視しなければならない」。そんな考えから「笑えて考えさせられる歴史学論文」を掲載する学術雑誌「Historia Iocularis」(「いお倉」)が生まれた。著者はその代表。同誌は当初アカデミズム史学以外の人からも原稿を寄せられていた(現在投稿受け付け停止)が、そこで明らかになったのがアマチュア歴史家や「歴史好き」の人たちとアカデミズム史学との深刻なコミュニケーションギャップだ。どうやら両者の間には「笑い」「面白い」「歴史学」といったことに対する考えに根本的なズレがあるようなのだ。
世間の多くの人がイメージする「歴史」とアカデミズム史学の側にいる人間が考える「歴史学」の違いは何か? 歴史学は人文科学の一ジャンルであり、「文学」的要素を持つ「科学」なのだが、多くの場合、文学としての歴史を面白がる人と科学としての歴史学を面白がる人は重ならない。そして歴史学には、論文の体裁についてルールがあり、そのルールにのっとっていないものは不採用となる。そうした論文審査の過程や学会がどのように運営されているのかを著者は懇切に説明していく。
そこで面白いのは、説明の合間合間に挟まれる著者の個人的なエピソードだ。貧乏学生だった著者は、遠距離通学と生活費を捻出するためにアルバイトに明け暮れ関係論文を読む時間がなくて苦労したことや、就職先を得ることの困難さなど大学教員のリアルな姿が描かれる。また人口が減少している現在、国公立大学や有名私大以外の中小私大、地方私大は過酷な生き残り競争にさらされているが、その辺の現状も大学の内側からリアルに語られる。
本書からは、硬直したアカデミズム史学をもっと開かれた世界にしたいという強い意欲が伝わってくるが、ユニークな現代大学(アカデミズム)論としても読める。 〈狸〉
(星海社 1650円)