収録に向かう途中で事故死した37歳 佐田啓二
車の前方に塩川橋の橋柱が迫ってくる。運転手はとっさにハンドルを左に切る。だが、この急ハンドルで車はスリップしてそのまま右に横滑りを始め、右の佐田が乗っていたあたりが橋柱に激突した。新車のクラウンの右半分は無残な状態になり、さらにこの衝撃で車は左にはね飛ばされ、追い越そうとした個人タクシーと衝突し、ようやく停止する。
すぐ下の河原にいた人がかけつけると、佐田は激しい息づかいをしながらぐったり。頭から血を流し、右腕は不自然な方向にねじれていた。やはり肩の骨を折った運転手は呆然として車を降りてうずくまっていた。同乗していた新聞記者2人もそれぞれ顔の骨折と肩の骨を負傷。衝突した個人タクシーも、軽傷者を出す大事故だった。
佐田は救急車で韮崎市立病院に運ばれたが、危篤状態。頭部のダメージがひどく、頭蓋底が骨折していた。開頭手術を行うにも心臓の衰弱が激しく手を付けられず、11時に息を引き取った。
47年、木下恵介監督の「不死鳥」で銀幕デビュー。53年の「君の名は」で国民的な大スターとなり、木下監督「喜びも悲しみも幾歳月」や小津安二郎監督「秋刀魚の味」など名作に出演した。鶴田浩二、高橋貞二とともに「戦後の3大二枚目」といわれた人気俳優ながらも、真面目で誠実な人柄で知られ、誰からも慕われていた。