個性派・佐藤二朗のブレークは堤幸彦監督の演出感覚のおかげ
そんなわけで、この出演をきっかけに劇場からテレビや映画の世界にシフトでき、顔を覚えてもらえるようになりました。とはいえ面と向かって「アナタが恩人です」とは、媚びている感じでヤラしいし、言うべきではないと僕は考えていたんですよね。ところが、数年前、ご本人の前でうっかり「堤さんは僕の恩人だ」と口が滑っちゃった。すると、堤さんは「え? 何で何で?」と。
作品に必要なシーンだからという観点でしか考えないようにされているのか、あえて監督という権力に甘んじないようにしているのかわかりませんが、インタビューで僕のことを話していた時に、「従来のエンタメの隙間を埋める役者。だから、同時多発的に起用したんじゃないか」ってうれしいコメントしてくださったんです。オレのおかげだなんて顔は一切しなかった。そこがまたカッコよくて。
「20世紀少年」のような大作を撮影した後、堤さんはドキュメンタリータッチの小規模作品を作ったり、常に期待を裏切っていく。規模も環境も全然違うのに、どれも堤さんの世界観がにじみ出ている。いい年したオッサンでこれだけアグレッシブに生きているのは本当に凄い。以前、撮影の合間に堤さんが「この10年、前衛的なこと、やりたいこと、客が分かることの妥協点を探っていた気がする」と話していたのを聞き、なるほどと納得した。劇団ちからわざの主宰として、自分もそうあらねばと身が引き締まります。