哀川翔“Vシネ帝王”への第一歩は長渕剛の強引な誘いだった
この作品はヤクザ社会を題材にしていて、俺は長渕さん演じる小川英二の舎弟分・水戸常吉。主題歌はもちろん長渕さんのミリオンセラー「とんぼ」だよ。いざロケが始まったら、長渕さんが言ったような「そのまんま」なんて通用しない。まずセリフを覚えるのにひと苦労、それから芝居。セリフの間を取るとか、それ以前の問題で四苦八苦したね。
ただ、そのころのロケって、本番前に必ずテストがあって、ディレクターの前であれこれ芝居を試すことができた。時にはアシスタントディレクター相手にテストのテストをしたりね。
だから、本番の時は形とか流れが固まってるから芝居に集中できた。この年になってみると、これが本当によかったと思える。今は経費の問題で、NHK以外はぶっつけ本番がほとんどだからね。慣れてない時に、一発勝負で数少ない引き出しの中から演技するなんてなったら、そりゃ難しい。
だから、28年前にドラマデビューできたってのは俺にとっちゃ、本当にありがたいことだった。朝まで飲み明かし、一睡もしないで現場に向かうなんてことは、しょっちゅうだったけど、毎日、勉強させてもらってた。長渕さんとのアクション、殴られるシーンでは、確実に10発中7発は実際に当たってたけど、それが「とんぼ」なんだって俺は納得してやってたしね。気が張ってたこともあって痛かなかったよ。