寡黙に徹した役所広司と実力派俳優陣が演じた福島の6年間
23日から2夜連続で、NHKが特集ドラマ「絆~走れ奇跡の子馬~」を放送した。東日本大震災で牧場と家族を失った福島の一家が、震災の日に生まれた子馬を競走馬として育てていく物語だ。
松下拓馬(岡田将生)は震災の中で馬の出産に立ち会い、子馬を守る形で亡くなった。地元からGⅠ馬を生み出すという拓馬の夢を実現すべく、必死で踏ん張る父・雅之(役所広司)。看護師として働きながら牧場を支えてきたが、息子の死にショックを受ける母の佳世子(田中裕子)。震災を機に東京から戻って父を助ける拓馬の妹・将子(新垣結衣)。力のある役者が現地の人々の6年間を誠実に演じていた。
父と娘は北海道の生産育成牧場に子馬を預けようとするが、「あの馬、被ばくしていないと言い切れるのか」と断られる。また新たな牧場を作ろうとした土地は除染廃棄物置き場となって使えない。当人たちではどうにもならない悔しさ。そうした苦い現実が描かれる。
全体として抑制の利いた、ストイックともいえるドラマだ。しかし寡黙に徹した役所広司が被災者の憤りを、そして「あの子馬を見ると拓馬を思い出してつらい」と静かに語る田中裕子が被災者の悲しみをしっかりと代弁していた。新垣結衣の「立ち止まるのは簡単。苦しくても前に進む。そう決めたんです、父は」というセリフも印象に残る。