「自宅リビングのように」 吹越満が語る“行きつけ”の条件
でも、なかなかしっくりくる店ってないもんでね。10軒以上ドアノブに手をかけてビール1杯だけってのを5、6軒繰り返したかな。そしたら玄関にカメラ付きのインターホンがついてるバーが目についた。東京だったらまず押しません、なんとなく怪しいから。でも、ドアの奥を知りたいっていう好奇心と冒険心がムクムクと湧いてきて誘惑に抗しきれなかったんです。
しばしの沈黙。そして「どうぞ」という女性の声とロック解除の音。ドアを開けると2階へ続く階段が視界に飛び込んできた。上がるとカウンターだけで10席ほど。女性が3人ほどいて、ガールズバーっていうより落ち着いた雰囲気の大人のバーでした。
料金は時間制で1時間2000円と先斗町にしてはすごくリーズナブル。居心地はいいし、適度な距離感を保ってくれる。以来すっかりお気に入りになり、京都へ行くたびに通うようになりました。そして何年かして、その下北沢のロックバーのスタッフが京都旅行に行き、とあるバーに入ったら、親切にもガイドブックを貸してくれた。ところが、帰りの新幹線の都合で返却できずに戻ってきちゃったんです。ただ、なんとか返送したいが、場所は覚えてるけど細かい番地まではわからない。「京都に行く時、返してもらえませんか」というので場所を聞いたら、驚きました。まさに僕の行きつけのインターホンのバーだったんです。