片岡仁左衛門の一世一代 「絵本合法衢」で魅せる悪の美学
今年は、久しぶりに仁左衛門・玉三郎コンビが復活し、3月は南北の「於染久松色読販」が上演された。2人ともヨレヨレになってまで役にしがみつくタイプではないので、南北ものを演じられるのもあと数年だろう。真面目過ぎて息苦しくなっている歌舞伎座に、「悪の美学の華」を2人でもう1回満開にさせ、退廃・爛熟も歌舞伎の魅力だと再発見させてほしい。
昼の部は尾上菊五郎の「裏表先代萩」で、こちらも菊五郎が2人の悪人を演じている。もうひとつが真山青果原作の「西郷と勝」で、尾上松緑が西郷、中村錦之助が勝を演じる。真山青果の3部作「江戸城総攻」の中から、西郷と勝の場面を取り出して1時間ほどに再構成したものだが、後半は西郷がひとりで長々と演説していて、芝居として退屈だった。劇の構成上のバランスが悪い。
(作家・中川右介)