小島一慶さん<5>俳句会講師はお金にならないが 今が楽しい
小島さんは続ける。
「1967年に大ヒットした黛ジュンさんの『恋のハレルヤ』という曲があります。♪ハレルヤ 花が散っても 風のせいじゃない 沈む夕陽は止められない、という歌詞です。僕はずっと情熱的な恋歌かと思っていましたが、実は作詞のなかにし礼さんが話すところでは、死と隣り合わせの満州からの引き揚げの光景を歌ったものだそうです。関東軍が満州居留民を置き去りにしてわれ先と逃げる。その浅ましさや自己中心を感じながら、当時6歳のなかにしさんは逃げた。やがて小高い丘を越えると、眼下に真っ青な海と空が広がり、葫蘆島の港に浮かぶフリゲート艦が見えた。『助かった』『やっとふるさとに帰れる』という感動が、あの“ハレルヤ!”という喝采につながったそうです。このように同じ戦争体験でも、いかようにも後世の人たちに伝えられるのです」
小島さんの祖父母も満州からの引き揚げ組。祖父は帰国後に酒におぼれた。小島さんは両親ではなく、その祖父母に育てられている。
「祖母方の実家は長崎で大きな料亭を担っていたそうです。僕が育った頃は、とうに没落していましたが……」