小島一慶さん<5>俳句会講師はお金にならないが 今が楽しい
小島さんは今、「東京カルチャーセンター葛西」で2週間に一度、玉藻同人の名で俳句会の講師をしている。生徒の月会費は2回で4320円。あまりお金にはならない。
「一度の句会の準備にどれほどの時間を費やしているのか。恐らく数十時間になるでしょう。このために新宿の俳句文学館にも通っています。今の生活は、何も考えずにモノが買えたり、好きに旅行ができたりする立場にはありませんが、生徒さんたちと交わす会話が無性に心地良いのです」
今でも伝えたいことは尽きないという。
「アナウンサー人生を振り返って一番悔しかったことは、カンツォーネの貴公子と呼ばれた村上進さんのラストステージでの司会です。村上さんは1994年の夏に46歳の若さで旅立たれましたが、その頃は末期のがんに侵され、やっと歌えるような状態でした。確か3曲ほど歌われたのですが、司会の僕が彼を紹介する際、『皆さん聴いてください。この人にとって最後の歌です』ということは言えるはずもない。ざわめく客席、実際に席を立って帰る人もいました。アナウンサーでありながら、伝えられないもどかしさ。人間は活字にされたり、声で説明されたりすると信じてしまう生き物ですが、真実というのは声が聴こえない、その向こう側にもあるのです」