尾上辰之助追善 菊五郎が結実させた完璧なアンサンブル
今月の歌舞伎座は、昼の2演目と、夜の1演目が「初世尾上辰之助三十三回忌追善狂言」と銘打たれている。辰之助(没後、三代目松緑を追贈)は1987年3月に40歳の若さで亡くなった「伝説の俳優」である。松本白鸚、中村吉右衛門、故・市川團十郎とは従兄弟にあたり、尾上菊五郎(写真)とは盟友で、存命であれば彼らと並ぶ大幹部となっていたはずの人だ。
昼の部「義経千本桜」の「すし屋」では、辰之助の息子の松緑が主役のいがみの権太で、同世代の尾上菊之助、中村梅枝らが共演し、市川團蔵、市村橘太郎らベテランが支える。
次の「暗闇の丑松」は長谷川伸の新歌舞伎で、辰之助が得意としていた役で、これを菊五郎が演じ、相手役は中村時蔵。
戦後の「菊五郎劇団」は梅幸・松緑の二頭体制だったので、その息子である菊五郎・辰之助の2人で率いていくはずだった。その辰之助を喪い、菊五郎はひとりで一座を率い、次世代を育成してきた。この2演目には、30年が過ぎて結実した、適材適所による完璧なアンサンブルがある。
夜の部の追善演目は「名月八幡祭」で、松緑が主演。この役を1983年に辰之助が演じた時に共演した、坂東玉三郎と片岡仁左衛門が、今回も同じ役で出て、松緑をもり立てている。