尾上辰之助追善 菊五郎が結実させた完璧なアンサンブル
玉三郎、仁左衛門とも、舞台での若さは驚異的だ。親子ほど歳の離れている松緑と並んでも、同世代にしか見えない。
玉三郎・仁左衛門はしばらく共演していなかったが、昨年から、夫婦や恋人、あるいは兄妹の役で共演するようになった。この2人が出演すると、登場人物たちの間に、幕が開く前に流れていたであろう何年、何十年もの「時間」が、舞台の上に生まれる。この感覚は、玉三郎・仁左衛門の時にしか生まれない。
「名月八幡祭」でも、玉三郎演じる芸者と、仁左衛門演じる愛人との間にある「時間」が舞台上にあるから、2人が別れられないことも、2人の間に松緑演じる主人公が割り込めないことも、見る者は、理屈ではなく、感覚で理解できる。
この3人のこの演目での顔合わせは、多分もうないだろうから、必見だ。
(作家・中川右介)