「ニッポン無責任時代」ヘラヘラ笑う異端児に憧れた時代
昔の日本人は生真面目だった。口数の多い男は「軽薄だ」「落ち着きがない」と見合いの席で相手の母親に敬遠された。映画「早春」(1956年)ではヒロインが母親から「男は無口が一番だよ」と諭されるし、1970年のヒットCMは「男は黙ってサッポロビール」だった。そんな時代にヘラヘラ笑い、ホラまじりのトークで他人を丸め込む平は異端児だ。だが、この異端児は老若男女に慕われる。しかもタイトルの「無責任」とは裏腹に気骨のある男だ。ただ酒を飲んでとんずらし遅刻しても無反省だが、氏家のために男気を発揮する。
当時の観客は平をミュータントとして捉えながら、「俺もあんなふうに調子よく生きてみたい」と憧れただろう。お堅い時代であればあるほど、打たれ強い問題児は輝きを増した。平均は日本映画で特筆すべき人間味のあるヒーローだ。
そもそも押し黙った男は面白くない。話題の少ない男と酒を飲むのは人生の無駄遣いも同然だ。寡黙が絵になるのは高倉健ひとりで十分。健さんはたしかにカッコいいけど、サシで飲んだら退屈しそうだ。 (森田健司/日刊ゲンダイ)