逆境に負けぬ演劇界 コロナ禍を逆手に取った朗読劇が出色
最後はラッパ屋の朗読劇「距離と人間」。紀伊國屋ホールを1日だけ借りての急きょの公演。しかしそこはラッパ屋。苦肉の策の朗読、配信劇と見せかけ実はコロナ禍の演劇を逆手に取った、すてきで泣かせる大人のエンターテインメントに仕上がっていた。
生のジャズピアノとの共演、そのお洒落感に真っ向から相反する、おじさん、いや今やおじいさんの日常あるある。コロナ禍で昼間のカレー屋営業で食いつなぐスナック、とそこの常連たちと、その家族のバツイチ子持ちアラフォーキャバ嬢の再婚問題。いかにもなラッパ屋な世界が繰り広げる中に、人間同士の心の距離の問題を、しっかり笑わせながらも描ききる鈴木聡氏の手だれの脚本が素晴らしい。
そんな朗読劇の3本立てだが、ちっとも朗読を見た気がしない。すっかりちゃんと演劇を見た気になる不思議な大人の喜劇だった。
■朗読劇「日の名残り」(原作=カズオ・イシグロ、上演台本・演出=村井雄)に出演。眞島秀和、大空ゆうひ・小島聖(ダブルキャスト)、マキノノゾミ、桂やまと・ラサール石井(ダブルキャスト)。東池袋・あうるすぽっと。9月30日~10月4日。