「国立演芸場始まって以来の大掛かりなマジックと言われました」
落語芸術協会の会員である伸は、大掛かりなイリュージョンを演じる傍ら、寄席出演を継続していた。
「浅草に、色物芸人だけが出演する松竹演芸場という寄席があって、そこにも出てました。漫才師やボードビリアンと仲良くなると、彼らとネタを批評し合うようになる。『おまえのあのネタ、こうしたほうがいいんじゃないか』なんて言い合う。それがとってもいいアドバイスになって助かりましたね」
売れ出した伸が次に挑戦したのは、文化庁芸術祭の賞を取ることだった。平成8年から10年までの3年間、私は芸術祭大衆芸能部門の審査委員を務めていた。その時期に伸が参加した。
「その節はお世話になりました。女性アシスタントを消すだけのイリュージョンではつまらないので、オートバイに乗った僕が、バイクごと一瞬で消えるイリュージョンをやりました。お客さまには喜んでいただきましたね」
その時の衝撃と興奮はよく覚えている。私は審査会議で伸を大賞に推した。しかし、他の委員の賛同を得られず、なんの賞も取れなかった。