神野美伽さん 韓国で大ヒット中「満開」との出合い、3月には自身がカバー
神野美伽さん(歌手/56歳)
1984年にデビュー、「男船」「浪花そだち」のヒットなどで知られる紅白出場歌手の神野美伽さん。単身で渡米、さまざまなジャンルに挑戦し、幅広く活動しているが、海外に飛び出すことができたのはデビュー間もない時の韓国での経験が糧になっている。そして出合った韓国の大ヒット曲「満開」――。
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私がデビューしたのは84年。それから15年後の99年には韓国でアルバムデビューすることもできました。日韓共催のW杯や「冬のソナタ」ブームの前のことです。あの時は日本と韓国を行ったり来たりする生活が1年続きました。
99年当時、韓国で仕事をするのはまだものすごくハードルが高かったですね。着物を着るのは絶対タブー、まだ片言しか話せないのにインタビューは韓国語なので、大人になってこんなにというくらい勉強をして、現場でも言葉を覚えました。
日本人が番組に出演するのはとてもデリケートな問題で、プロデューサーも命がけでしたね。それでも日本の「うたコン」みたいな番組や韓国を代表する人気番組に出演するようなこともできました。ただ、オリジナル曲は歌えず、歌うのは韓国のヒット曲。日本人が出るなら出たくないという歌手の方もいる一方で、すごくフレンドリーにリハーサルや音合わせは「どんな感じ?」なんて聞いてくれる人もいました。仕事の場所を広げたいと思って歌手を続けていたので、韓国で仕事ができたことはうれしかったですね。
実は私と韓国の出合いは88年のソウル五輪の1年前、87年に遡ります。まだデビューしてから3年しか経っていなかったのかな。日本のテレビ局の仕事で歌のルーツを歩くというのがテーマで韓国を旅しました。その時、韓国語を話すことができたら、九州に行く感覚で韓国に行くことができ、エリアがぐんと広がると思ったんですね。それで帰ってきてから独学で韓国語の勉強をしていたんです。
当時は桂銀淑さんやチョー・ヨンピルさんが韓国から日本に来て活躍していました。日本語をきちんと勉強して日本の芸能界でプロとしてやってらして、ご一緒する機会もありました。その時、私が韓国に行って歌うのに、通訳を連れて行くようでは話にならないし、私が韓国語を話すことができたら新鮮に思ってもらえるんじゃないかなと。
韓国でのデビューからしばらくして、2001年には教育番組(現・Eテレ)のスタッフから歌いながらハングルを学ぶ番組の話があり、「歌うハングル酒場」というコーナーでいろんなジャンルの韓国の歌を歌いました。ずっときちんとした発音で話したいと思っていたし、スキルアップになるとてもいい機会なので、私にとって渡りに船の番組でしたね。
アメリカのジャズクラブでは着物姿で演歌を
8年前に、単身で迷いもなくニューヨークに行くようになったのはそんな韓国の経験があったからだと思います。私が外国向きの性格だったということもあるかもしれませんが(笑い)。アメリカではアジア人、日本人であることのマイナス面もわかりましたし、私はあえてジャズクラブで着物を着て演歌を歌っています。
「人生を変えた一曲」は3月に発売したカバー曲の「満開」です。作曲したのはシン・ジフさん、歌っているのはキム・ホジュンさんです。これまで興味があることにひたすら向かい合って言葉も勉強して、コロナ禍の中で出合うことができた特別な曲です。
日本で「満開」をカバーしませんかというオファーはシン・ジフさんが所属する事務所からいただきました。なぜ私かというと、これまで韓国で仕事をしてきたからだと思います。でも、私はそれまで「満開」が隣の国で大ヒットしているのを知らなかったんです。
聴いてみたら、なんて素晴らしい歌なのか……。アレンジがいいし、考えられないくらいスローなテンポのすてきな曲だなと思いました。ぜひ歌いたいし、できれば、日本語の歌詞を自分で書いてみたいとお願いして、実現することができました。
キム・ホジュンさんはもともとオペラ歌手です。幼い時に両親が離婚、おばあさんに育てられたのは有名な話です。寂しい思いをし、テレビで彼の逆境が取り上げられ、本人がすべてをカミングアウトした上で、それでも歌いたい……。コロナ禍でみんなが不安、恐怖を感じている中で彼のように恵まれない環境でも生きようとしている姿に国民が共感したのだと思います。彼は昨秋、徴兵に行きました。「満開」がヒットしているさなかなのに。
日本と韓国の歌詞は違いますが、「満開」というタイトルと「もう一度 咲く」というキーワードは一緒です。
(聞き手=峯田淳/日刊ゲンダイ)
■9月22日「浪花恋おんな」(日本作曲家協会・日本作詩家協会共同企画「ソングコンテストグランプリ・2021」グランプリ受賞作品)リリース
◆11月24・25日「クリヤ・マコトTRIO JAZZ CONCERT with 神野美伽・森口博子」(24日=広島・さんわ総合センターやまなみ文化ホール/25日=同・せらにしタウンセンターつばきホール)
◆12月2・3日「ジャズ&ラテンフェスティバル West vs East」ゲスト出演(2日=京都・文化パルク城陽プラムホール/3日=大阪・南海浪切ホール大ホール)