<83>早貴被告に任意同行を求め刑事がきたが本人はスーパー銭湯に
「よく知っていますね」
「なあに、和歌山県内はほとんどの市町村を回っているから」
「へえ、そうなんですか」
20代前半に見える若い女性刑事が目をみはった。
「もう社長の死因は分かっているんだろう?」
「どうですかねえ。私ら早貴さんから事情を聴くために署に連れていくのが仕事ですから」
リーダー格らしき男性刑事が苦笑する。そんなわけがないことは高揚している彼らの表情を見ればわかる。きっと何かをつかんだはずだが、それを隠そうとしているから私との世間話の受け答えも上の空だ。
午後9時ごろにスーパー銭湯から戻ってきた早貴被告は玄関で署まで同行することを求められた。
「ダメだ。撮るな」
彼女が女性刑事の運転する車に乗り込む様子を片手に持ったデジタルカメラで狙おうとすると、男性刑事が手でレンズをさえぎろうとした。