(9)誕生日にタランティーノが家にやってきて「私の次回作に出てください」と
その次回作こそ日本を舞台にした「キル・ビル」だった。物語はユマ・サーマン扮する凄腕の女殺し屋の復讐劇だ。復讐相手の一人が日本のヤクザのボスとなっていて、これをルーシー・リューが演じた。
クエンティンが私のために用意してくれたのはユマに最強の刀を授ける服部半蔵の役だった。半蔵はかつて忍びと刀鍛冶をやっていたが、今は沖縄に身を潜め、マズい寿司屋をやっているという設定である。
しかし、服部半蔵の役名はさすがに不自然だ。
「服部半蔵は現代ではなく江戸時代の人物なんだが」
私が抗議すると、クエンティンは「まったく問題ありません」と言い切った。
「これは僕が少年時代から見てきた映画やテレビの記憶の断片で構成されたファンタジーの世界ですから」
だったら、私はクエンティンの世界観の中に身を預けるしかない。荒唐無稽であることも映画の楽しさであり、私はそんな世界観が嫌いではない。
私はクエンティンの要望で、「キル・ビル」に役者としてだけでなく、武術指導でも参加した。主に担当したのはユマ・サーマンとルーシー・リューだった。