映画「ひとくず」が異例のロングラン! 低予算で“虐待問題”を描き切った上西雄大監督の執念
しかし、黒字にするためには低予算で製作しなければならないという壁にもぶち当たった。
■「消化試合にはしたくない」
「まず配給会社を見つけることが困難でした。宣伝費を用意するためにスポンサーも探さなくてはならない。リゾートライフグループの柴山勝也会長が『この作品は世の中に出さなくてはならない』と意義を感じてくださり、企業の社長や会長らを集めて試写会を開いてくださりました。それによってなんとか公開にこぎ着けましたが、そのタイミングで新型コロナウイルスによるロックダウンに直面してしまいました。再度上映できる時期がいつになるかわからないし、保証もありませんが、とにかく消化試合にはしたくなかったので再度宣伝費を集めて、再上映することにしました。1人で80回も映画館に足を運んでくださる方も現れて、全国的に話題も広がっていきました。それが作品をロングランへと押し上げてくれたのだと思います」
映画業界を取り巻く現状について、上西監督はこう語った。
「今は大きな配給会社で作られた作品でなければ世界にマーケティングするシステムすら構築されていません。だからこそ低予算ながらもヨーロッパで最初に評価された『ひとくず』は僕にとってもひとつのモデルケースとなりました。話題になって最初の方だけ数字として実績をつくっても、多くの人の心に残っていかないと映画としての意味がない。そのために若い世代を巻き込んで、ストリーミング配信などに負けない戦略を立てた映画づくりをしていくことも今後の課題です」
この映画で救いの連鎖を生みたいと語った上西監督。その執念が人々の心を動かしたのかもしれない。
(取材・文=SALLiA/ライター)