「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」から考える 映画界で昭和レトロブームが続く背景
この作品は昭和15年から20年までの戦時下を背景に、自由な校風の中で育っていく「トモエ学園」の子どもたちを、黒柳をモデルにしたトットちゃんを中心に描いたものだ。さらに同日、現代の女子高校生が昭和20年6月にタイムスリップして、特攻隊員の青年と恋に落ちる福原遥、水上恒司のダブル主演によるラブファンタジー「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」も公開される。
こういう昭和レトロブームの背景には、人々が現状の文化や社会に対する不満や物足りなさを感じていることもあるだろうが、どの作品にも人と人が直接触れ合うことの大切さが共通して描かれている。これは情報ツールの多様化によって見聞できる世界は広がったが、人が人を思いやる心のつながりは希薄になってきている現代への反動が、昭和への憧れをもたらしているのではないか。
また「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」に描かれる龍賀一族が支配する村の陰湿な因習ひとつとっても、昭和が決してバラ色の時代だったと各作品はいっているわけではない。社会のゆがみや国としての方向性の誤り、さまざまな人に対する差別など、昭和という時代の“負の遺産”を盛り込みながら、その中で必死に生きた人間を描くことで見えてくるもの。
今の時代に欠けている“人間力”の魅力がそこにはあって、昭和を知って現代を見直すきっかけになれば、このムーブメントも若者の単なるファッション的な文化に終わらないと思うのだが。
(金澤誠/映画ライター)