「光る川」高度経済成長期の1958年、少年は病母のために川をさかのぼり、大昔の悲恋に遭遇する
大人が納得できるファンタジー作品
1958年は戦後13年。日本の高度経済成長が始まった時期だ。物質文明に向かおうとしていた時代だけに、ユウチャの父ハルオは「いずれダムができる」と村の暮らしを見限るようなセリフを発する。だが祖母は森の神への信仰を失っていない。祖母の言説を信じるユウチャは純真な気持ちから、母を救うべく単身で川をさかのぼっていく。
58年生まれの筆者はまず、自転車の荷台で演じられる紙芝居に懐かしさを覚えた。次に菅笠をかぶって川を上るユウチャに聖地を巡礼する遍路の姿を投影させた。いずれも1950~60年代に全国のあちこちで見かけられた光景だ。本作の魅力はこうしたノスタルジーの喚起でもある。
金子監督はCGを一切使わずに自然の美しさを映像に収めた。深緑色の川の淵、荘厳な響きの滝、新緑のあでやかさ、風に震える木の葉、青空と雲海のコントラストなど、すべての色彩が窒息しそうなほど濃厚だ。スクリーンからマイナスイオンを吸収しているような錯覚を受けてしまう。
ユウチャは多くを語らず、淡々と大人たちのやり取りを聞き、自分が何をするべきかに気づく。家族を守るために父親の同行もなく、ひたすら上流を目指す姿があまりにも健気だ。着ていた衣装は泥に染まっていくが諦めるそぶりもなく、やがて伝説と遭遇する。圧倒的なクライマックス。大人が納得できるファンタジー作品である。
この映画を見ながら2つの作品を思い出した。ひとつはスペイン映画の傑作「ミツバチのささやき」(1973年)。アナという幼女が森の精霊を求めてさまよう物語だ。本作は日本版「ミツバチのささやき」と言えるだろう。もうひとつは深沢七郎の小説「楢山節考」。58年と83年の2度に渡って映画化されている。
「楢山節考」は老いた母を捨てるために息子が険しい山を登る物語。一方、本作のユウチャは病身の母の命を救うために逆境に立ち向かう。両作品を対比しながら鑑賞するのも楽しい。
日本人が忘れかけている民間伝承と経済成長下の現代を融合させた「光る川」。そのエッセンスを中高年以上の世代に堪能してもらいたい。(配給:カルチュア・パブリッシャーズ)
(文=森田健司)