伊東蒼が「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」で演じた暗がりの中の告白は、日本映画史に残る名シーンだ
そして映画の中盤、銭湯の清掃をしながら桜田のことばかり言う小西に、さっちゃんはバイトの帰り道、ついに愛の告白をする。場所は街灯の光が届かない暗がりの道。この場で約7分間、さっちゃんは小西へのかなわぬ思いと、早く告白しなかったことの後悔をひたすら語り続ける。演じた伊東蒼はさっちゃんのことを「エネルギーと素直さとまっすぐさがあって、それでいて少し臆病で、とても愛おしい人」と語っているが、勇気を振り絞って告白しながら「私、小西君のことアレやねん」と、“好き”という言葉を直接言えない臆病さが見える。小西に返事を返されることを怖がるように言葉を重ね、言いたいことをすべて吐き出そうとする告白シーンは、報われないことがわかっているだけに切ない。
しかもこの7分、時折カメラが彼女に近づくことはあるが、ほとんど顔の表情が見えない暗がりの中で告白が行われ、それでいて一瞬も目が離せない説得力を持っているのがすごい。今年の日本映画の中でも、間違いなく見た人の胸に刻まれる名場面になっているのだ。
伊東蒼は6歳でテレビドラマデビューし、映画「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016年)で高崎映画祭最優秀新人女優賞、安藤サクラと共演した初主演映画「島々清しゃ」(17年)で毎日映画コンクールのスポニチグランプリ新人賞を12歳で受賞した逸材。その後も、主人公の父親の人生を狂わせる、万引して事故死する娘に扮した「空白」や、失踪した父親を捜す女子高生を演じて毎日映画コンクール女優助演賞に輝いた「さがす」(22年)で、強烈な印象を残した。最近もテレビ「新宿野戦病院」(24年、フジテレビ系)での母親の交際相手から家庭内性的暴行を受けている女子高生役、窪田正孝主演の「宙わたる教室」(24年、NHK総合)では、それぞれ問題を抱えた仲間との科学部の活動を通して起立性調節障害を克服していく定時制の高校生を演じるなど、着実にキャリアを重ねてきた。