「女は求められてなんぼよね」還暦女とも男女の仲に…若旦那を共有するセレブ妻らの同盟 #3

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コクハク

これまでのあらすじ

【不倫依存~婚外恋愛を謳歌する男女】

 静香さん(35歳茶道講師/既婚子供アリ)は、祖母、母と3代にわたり、都内の邸宅で茶道教室を開いている女性だ。彼女は懇意にしている呉服屋Aの若旦那・航平さん(40歳/既婚子供アリ)に一目ぼれ。長身で甘く整った面差しの彼の「特別な存在になりたい」と、商品購入にお金を使う。

 そんな折、VIP客を対象にした着物の展示会が熱海の老舗旅館で開催され、静香さんは憧れの航平さんと個室で2人きりに。その着付けの最中、2人は男女の仲になった。そして、結果的に300万円もの商品を購入し、その後も彼のために売上貢献する日々が続く。

 だが、イケメン若旦那は、呉服屋Aに通う他の女性とも関係している事実が発覚。静香さんは愕然となり――。

 気になる続きの前に、第1話はコチラ、第2話はコチラからお読みいただけます。

還暦女とも男女の仲に?

 静香さんは語る。

「航平さんが他の女性客とも男女の仲に…? その事実を日本舞踊の師範・涼子先生に聞いたとき、ショックでひざから崩れそうになりました。

 セレブな女性客が『イケメン若旦那』目当てに熱心に呉服屋Aに通っているのは周知の事実ですが、まさか50代の涼子さんや還暦のお琴の師匠・久恵さんとも関係があるなんて…。あまりの衝撃に、その日はどのように帰宅したのか覚えていません。

 ただ、私に触れた手や唇が、他の女性にも同じことをしていたかと思うと許せない…と憎しみが湧いてきました。明らかにマクラ営業です。しかも、20歳も離れた還暦女も相手にするなんて…」

 静香さんはしばらく眠れぬ夜を過ごした。しかし、自分には家族がいて、茶道講師としての立場もある。常に優美に振る舞わねばと言い聞かせた。

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彼会いたさに再び呉服屋へ

「航平さんと会うのがつらく、3週間ほど呉服屋には通えませんでした。でも、やっぱりダメですね。一度関係を持ってしまうと、未練を抱いてしまう。結局、彼会いたさに呉服屋の門をくぐりました。航平さんは何もなかったように笑顔で迎えてくれたんです。

 ――静香さん、いらっしゃいませ。今日の水色のお着物も清楚でお似合いですね。しばらくお運び頂けなかったので心配していたんですよ。

 ――ごめんなさい。ちょっと体調を崩していたので…。

 私はとっさに笑顔を作りました。誰のせいで心を病んでいたのか、気にも留めていないでしょうね。そんな女心など知るはずもない彼は、

 ――ちょうどよかった。静香さんが先日購入された訪問着に似合う帯が入荷したんです。どうぞ奥の部屋へ。

 ――えっ、奥の部屋…ですか?

 ふだんは『スタッフ以外、立ち入り禁止』と書かれたドアがあることを知っていました。しかし、

 ――今はスタッフが出払っているので。

 私は促されるまま小部屋に招き入れられました。ほの暗い四畳半ほどの空間。その一角には、花菱模様のフォーマルな袋帯が飾られていました。

毒づいても彼にあらがえない

 ――ステキ…艶(あで)やかですね。

 ――静香さんの艶やかさには適(かな)いませんよ。

 そう囁かれたときでした。あっと思う間もなく彼に手を取られて、引きよせられたんです。彼は着物の袷(あわせ)を広げることなく、背後から裾をめくりあげて迫ってきました。

 抵抗するふりをしましたが、女って弱いですね。言いたいことはいっぱいあるのに、私を『女』にさせてくれる唯一無二の彼にあらがうことなどできません。

(他の客にも同じことしてるんでしょう?)

 そう胸中で毒づいても、心とは裏腹に体は敏感に反応しました。声を出しちゃダメ…と思うほど、昂(たかぶ)りが増していくんです。

 結局、その日も男女の関係となり、勧められた25万円の袋帯を購入しました」

女は求められてなんぼよね

 静香さんは伏し目がちに続けた。

「ある日、店内でお琴の師匠・久恵さんと遭遇したんです。還暦とは思えないほど肌ツヤもよく、結い上げた髪と黒の着物が相まって、エレガントな魅力を感じさせる美魔女系の女性です。

 ――まあ、静香さん、ごきげんよう。

 ――久恵先生、お久しぶりです。

 私は航平さんと関係を持っていると噂された彼女を前に、頬を引きつらせました。そんな私に久恵さんは歩み寄り、耳もとで囁いてきたんです。

 ――ねえ、静香さんも奥の小部屋に行ったそうね。

 ――えっ、なぜそれを?

 ――ふふっ…あの袋帯、私も狙ってたんだけど、若旦那が『静香さんが気に入ってくれたのでご購入頂いた』って教えてくれたのよ。まったく、若旦那ったらいじわるよね。

 ――あ、あの…奥の部屋には久恵先生も…?

 一瞬の間がありました。

グループLINEに招待され

 ――涼子さんと私だけだったのに、まさか、静香さんまでとはね。本当に罪作りな男だこと。

 ――……。

 私が何を言うべきか迷っていると、

 ――でも、お陰で肌はツヤツヤ。やっぱり女って求められてなんぼよね。どんな高価な着物や美容液よりも、若さを保つには効果的。そうそう、静香さんのLINEのIDを教えてほしいわ。

 私が呆気に取られながらもスマホを差し出すと、すぐに『友だち』に追加され、あろうことか涼子さんと3人のグループLINEを作成されてしまったんです」

 後日、グループLINEでは久恵先生と涼子先生が若旦那との赤裸々な行為を綴るチャットがアップされた。同時に、購入した着物や帯、小物類の画像もアップされる。最初こそ、息を詰めて読んでいた静香さんも、少しずつチャットに加わったという。

女っぷりを高めてもらう同盟

「いつの間にか、3人での『若旦那ブログ』が作られました。火曜日の午後イチだとスタッフは出払っていることが多いとか、閉店間際に行って試着を頼むと小部屋に通される確率が高いなど。他にも、行為後の若旦那の着付けの速さは神業! など。

 その頃には、ショックや嫉妬など消え去っていました。皆、若旦那のお陰で若さを保っている。家庭や仕事での悩みがあっても、彼と触れ合うとチャラにできる。仕事でいっぱい稼いで、呉服屋Aに金を落として若旦那に『女っぷり』も高めてもらいましょうと同盟ができました(笑)」

 ショックを受けていた静香さんだったが、「もう吹っ切れました。いい男はシェアする時代ですね」と笑う。そんな彼女がいちだんと美しく見えた。

(了)

(蒼井凜花/作家・コラムニスト)

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