(16)飲まず食わずしゃべらず…生きる意欲をなくしてしまったように

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 朝早く、叔母たちが車で迎えに来た。母はすでに自分で歩くことが難しく、叔母が背負って車に乗せたという。しかし、その日がどれほど重大な日になるのか、その時の私はまだ知らなかった。

 この日、叔母たちは父に一言も声をかけずに家を出た。その理由を後から知った。彼女たちは、母が長年にわたって父との間に確執を抱えていたことを察しており、あえて父を無視することで母への連帯を示したつもりだったようだ。まったく、それは余計なことだったと思う。

 母の脳はすでにかなり萎縮していた。症状の進行も深刻で、自宅での生活は困難だという判断で、そのまま入院することになった。叔母たちでさえその後の面会は一切、禁止された。

 母はその後、実家に戻ることはなかった。そして父は一人でその家に4匹の猫たちと住み続け、やがて力尽きてひっそりと亡くなり、後に発見されることになる。

 あの朝、もし叔母たちが父に声をかけて出かけていたら---私は今でも、そのことを考える。 (つづく)

▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」。

【連載】突然、母が別人になった

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