高級腕時計店で万引か…疑いの目で客を監視したら女性店員から「あっち向いてて」と怒られた
警備員編
高級ブティックのドアマン警備員として立哨することになった。ドアのそばに立ち、両手をへその下に組んで、入ってきた客に「いらっしゃいませ」と声をかける。それ以外は、これといってすることはない。
単調な仕事の中「あれっ?」と思うことがあった。矢島さん(仮名)という女性スタッフが封筒を差し出して「100メートルほど行ったところに郵便ポストがあります。出してきてください」と依頼してきたのだ。
私は店の警備のために雇われている。郵便物を投函する義務はない。だが矢島さんは当たり前のように要求してくる。私は自分より40歳も若い女の子の小間使いというわけだ。
べつに不愉快には思わないが、これまであちこちの面接で言われた「60代のバイト体験はプライドがズタズタになりますよ」という言葉が記憶に蘇る。もし、一流大卒の有名企業出身者だったら、「バカにするな!」と怒り、その場で制服を脱ぎ捨てて辞めていくだろう。
たまに自分が頼りにされていることを実感する。女性スタッフが接客中、別の商品を取りに行くため売り場を離れることがある。そんなときに「すぐに戻ります。見ておいてください」と頼まれる。客が商品を持って出ていかないよう監視して欲しいということだ。私は「分かりました」と答え、じっと客を凝視する。