自由が丘の焼き鳥「かとりや」で蘇る…赤坂ナンバーワン嬢との苦い記憶
第22回 自由が丘(目黒区)②
1970年代に書かれた田中小実昌さんの映画エッセーを読むと、あの時代まではちょっとした街ならどこにでも名画座があったということにいつも驚いてしまう。
と同時にあらゆる映画を見ていることに感動する。だって「特出しヒモ天国」から「旅芸人の記録」だよ。それはともかく、コミさん(あえてこう呼ばせていただく)が足しげく通っていたのが武蔵野推理劇場。自由通りから東横線の踏切を渡り、熊野神社がある界隈にその映画館はあった。アタシもここにはよく通ったもの。
ここで映画を見た後、おしゃれな自由が丘の街に背を向けるように「タクシードライバー」のデニーロ演じるトラビスを気取って歩いていた。若かったねえ。その何年かのち、仲の良かった年長者に連れて行ってもらったのが「金田」。1936年創業。居酒屋の名店といえば必ず名前が挙がる店だ。今回久しぶりにのぞいてみた。
1階はコの字形のカウンターが2つ。2階3階はテーブル席と座敷。開店時間の5時にはすでにカウンターは8割方埋まっていて皆さん機嫌よくやっている。アタシもカウンターに案内され、まずはエビスの小瓶(630円)とシマアジ(950円)でスタート。この店も間違いなくお客のほとんどは昭和世代。アタシよりも先輩とお見受けするご仁が4人、リラックスして酒を楽しんでいる。
それに比べると初心者らしきご夫婦や2人で来ているサラリーマン風は店の雰囲気に気おされてか少々緊張気味。カウンターは一人客が多く、話し声もなく静か。複数の客も小声で話している。アタシはどちらかというともう少しざわついている方が好きだな、なんてことを考えながら菊正の熱燗(440円)を注文。
角に座る先輩がうまそうなてんぷらを注文したのでアタシもすかさず、カウンター内の若い店員に「あれ何? うまそうだね」。
「ワカサギのてんぷら(950円=写真左)です。食べます?」
「いいね、食べる」
アタシをちらっと見た先輩が「うまいよ」。いい雰囲気になってきた。ワカサギが来るまで里芋煮(550円)で場つなぎ。ワカサギ天が来ると同時に菊正の冷やをコップでもらう。塩をつけてバク! すかさずグビリ! 角の先輩がアタシを見てニヤリ。