高齢者のふらつきは持病の薬に原因あり 笑福亭鶴瓶は「殺虫剤打たれたゴキブリみたい」に
落語家はチョンボを笑いに変えてナンボだが、笑っていられないのが笑福亭鶴瓶(72)が経験した体調不良だ。高齢者を専門とする医師は、だれでも起こり得ると警鐘を鳴らす。
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報道によると、鶴瓶は今月14日、東京から大阪に帰ろうと羽田空港に向かう途中、歩き方がおかしくなり、「ホンマにアカンかな」とラジオで語っている。つまずいて膝をケガしたほか、空港に着いてからも「歩き方がなんか浮く。空足を踏む感じ」で、「どうしても立てなかったのよ。(タクシーの中では)殺虫剤打たれたゴキブリみたいになっててん」と“万事休す”だったらしい。
マネジャーの付き添いで空港では車いすに乗せられて何とか中に入ったものの、妻の判断で救急病院に急行。診察の結果、「(原因は)たぶん、薬やと思う。風邪ひきの薬やけど」と結論づけている。
瀕死の自分を「殺虫剤打たれたゴキブリ」に例えて笑いを誘ったが、希代の落語家も72歳。寄る年波にはあらがえない。実は薬の副作用による、ふらつきはいろいろな薬で起こりやすく、高齢者は要注意なのだ。
高齢者の訪問診療も行う明陵クリニック院長の吉竹弘行氏が言う。
「鶴瓶さんのケースについてはあくまでも推測ですが、風邪薬が市販薬だとすると、その成分のひとつ抗コリン薬がふらつきの原因かもしれません。抗コリン薬は、高齢者に発症しやすい多くの病気の治療薬にも含まれていて重複すると、副作用が現れやすいのです」
では、どんな薬が危ないのか。ふらつき以外の副作用も含めて詳しく聞いた。
まず抗コリン薬は、神経伝達物質のアセチルコリンが受容体に結びつくことを阻害する薬剤の総称で、抗パーキンソン病薬、抗不安薬、抗うつ薬、過活動膀胱治療薬、胃薬、抗ヒスタミン薬(第1世代)、抗めまい薬、抗不整脈薬、気管支拡張薬など幅広い薬に使われている。
不眠症があると睡眠導入剤として抗不安薬が処方される。鼻炎症状に効果的な抗ヒスタミン薬は第1世代で眠気が問題視され、そのリスクが少ない第2世代に切り替わっているが、市販薬ではいまも第1世代が使われているものもある。つまり、前述したような病気を抱えて薬を常用している人が「あれ、風邪かな?」と何げなく市販薬を飲むと、その一錠で成分が重なって副作用を起こす恐れがあるという。
「高齢者は、複数の持病があるのが一般的で処方される薬が多いため、服用する薬が多いほど転倒リスクが高いという報告があります」
東大病院老年病科の調査によると、高齢者は薬の種類が増えるほど有害事象も増え、6種類以上は有意にリスクが上昇。転倒の発生頻度も同様で、5種類以上で有意差をもってリスクが高くなるという。
薬の処方状況を調べる「社会医療診療行為別統計」(2023年)によると、院外処方の場合、40~64歳は「1~2種類」が46.6%で、「5~6種類」が13.5%、「7種類以上」が9.9%だが、65~74歳では「1~2種類」が2.9ポイント減り、「5種類以上」が合計4ポイント増の27.4%。75歳以上は多剤併用の傾向がより強まり、「5種類以上」が合計39.7%に上る。40~64歳と比べると約16ポイント増だ。逆に「1~2種類」は約12ポイント減っている。
■せん妄や記憶力低下など認知症も
年齢的な衰えを考えると、年を重ねるにつれて薬が増えるのは仕方ないかもしれないが、多剤併用による副作用の影響を知ると、見過ごすことはできない。転倒のほかどんな副作用があるのだろうか。
「抗コリン薬は、記憶力や集中力の低下、せん妄などの副作用も知られていて、薬剤性の認知機能障害を起こすことでも要注意です。『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』では、75歳以上の高齢者に『特に慎重な投与を要する』と記載されています。また、ベンゾジアゼピン系睡眠薬と抗不安薬も同様に慎重投与の対象です。特に長時間作用型のベンゾジアゼピン系睡眠薬は、服用直後に一過性のせん妄が生じたり、薬効が持続して日中の眠気を誘発しやすい。パーキンソン病の薬では、突発性睡眠といって、突然意識を失うようなこともあります。高齢者にとっては、いずれも要注意です」