検証「ニッポンの死刑」(上)法務省はほぼ情報公開せず…死刑執行や死刑囚の実態など「秘密のベール」は分厚い
千葉氏の話の中で驚かされたのは、執行する死刑囚の順番をどう決めているか法務官僚に質問しても、具体的な基準や経緯については明らかにされず、「よくわからなかった」と述べたことだった。死刑執行に至るプロセスを法相に十分説明しないまま、執行命令のサインを求めているのであれば、実質的に法務官僚が死刑囚の生殺与奪の権を握っていることになる。
就任前から死刑廃止の立場を取っていた千葉氏が、批判を覚悟しながらも執行を決断したのは、情報を公開して議論を進めたいとの思いがあったからだ。だが、法務省内に設置した死刑制度に関する勉強会は、存廃両論併記の報告書をまとめたのみで終結した。刑場公開後も、法務省は情報公開に後ろ向きな姿勢をとり続け、国会での議論も進んでいない。
死刑が執行されると、法相が臨時記者会見を開き、処刑された死刑囚の名前などを公表する。しかし、その死刑囚を選んだ理由や執行の状況などについて質問が及ぶと、法相は「死刑囚の心情の安定に差し障りがある」「お答えを差し控える」と繰り返すだけで、回答はゼロに等しい。それは死刑という究極の公権力を行使した責任者として、極めて不誠実かつ不適切だ。
法務省や国会議員は、議論を喚起しようとした千葉氏の思いに、いま一度向き合うべきではないだろうか。(つづく)
(佐藤大介/共同通信編集委員兼論説委員)