甲子園62勝の小倉清一郎コーチ激白「さらば横浜高校」
9月には東大の練習を視察する
高校生の指導は年々難しくなっている。指導者が手を出すのは言語道断。きつい練習をさせられた選手が、私にツバを吐くこともあった。それでも口で言って聞かせないといけない。正直、しんどいと感じることもあった。
教え子で記憶に残るのは、投手ではやはり松坂大輔(メッツ)、成瀬善久(ロッテ)、涌井秀章(同)。打者で衝撃を受けたのは多村仁志(DeNA)、阿部真宏(元西武)、筒香嘉智(DeNA)が思い浮かぶ。
松坂は私の容赦ない「アメリカンノック」についてきた。水分補給はさせたものの、真夏の炎天下、4時間以上もぶっ続けで受け続けた。歴代の選手の中でも間違いなくナンバーワンのスタミナがあった。入学以来、止まることなく成長を続け、最後には「怪物」になっていた。涌井も順調に成長。成瀬は手がかからない投手だった。
多村は身体能力、特に瞬発力があり過ぎて筋力がついていかず、手も足もよく故障したのが思い出深い。阿部は私の考える野球を最も体現できた選手。例えば一塁から平凡な左飛で二塁へタッチアップできる。レフトの返球や遊撃手の中継にスキがないかを見るようにと教えるとすぐに試合でできた。筒香の打球は規格外だった。高校通算69本塁打だったが、うまくタイミングが取れていれば100発は打っていた。
8月までは横浜に籍がある。9月になったら、76連敗中の東大の練習を一度視察する。秀才軍団がどんな野球をするのか楽しみ。11月と12月に1週間ずつ奄美大島の大島高校に教えに行くことも決定している。その他も決まってきているが、今後は要請があったところにフリーの指導者として赴くつもりでいる。
今夏の甲子園出場校の顔ぶれを見ると、センバツ優勝の龍谷大平安、沖縄尚学、広陵、九州国際大付、神戸国際大付、大阪代表はまだ決まっていないが、打線に破壊力がある大阪桐蔭あたりが中心になるとみている。
やりたいように指導させてもらった。94年に部長に就任して以来、コンビを組んで3度甲子園で優勝した渡辺元智監督には感謝している。私は口が悪い。迷惑をかけたこともあったが、横浜高校野球部の同級生でもある渡辺監督にかばってもらい、続けてこられた。
決定的なケンカもあった。93年には采配のことでぶつかり、渡辺監督が他校の監督のオファーを持ってきた。それでも一緒に戦ってきた。盟友というか、もう夫婦みたいなものだった。ちなみに、渡辺監督には「神奈川の他の高校では教えないでくれよ」と言われているが…。
私は東海大一(現東海大翔洋)、横浜商、そして横浜の3校の指導者として甲子園で通算62勝。監督通算1位の智弁和歌山の高嶋監督は63勝だから、あと1勝はしたかったと思うが仕方ない。
渡辺監督も今年で70歳。体には気を付けて、これからも元気に横浜を率いて欲しい。