東京五輪開幕まで2年 “酷暑マラソン”に不参加続出の懸念
嶋原氏が言うように、海外選手の最大の狙いは賞金だ。例えば、夏季五輪直後の9月に開催されるベルリンマラソンの優勝賞金は7万ユーロ(約910万円)。世界記録更新なら5万ユーロ(約650万円)のボーナスが出る。1月に行われるドバイマラソンの優勝者は20万ドル(約2220万円)、世界記録で25万ドル(約2775万円)。世界最高峰シリーズ「ワールド・マラソン・メジャーズ」(東京、ボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨークシティー、五輪および世界陸上)の総合優勝者は50万ドル(約5550万円)を手にする。
東京五輪でメダルを取れば一流ランナーなら契約スポンサーからボーナスも出るが、それで体を壊してしまえば競技人生はおしまいだ。「危険な東京五輪は回避して、秋からのレースに備える」という選手が続出しても不思議ではないのだ。
■「死人が出るかもしれない」
酷暑の中でレースをする危険性に加えて、日本のマラソン界の今後を危惧するのはスポーツライターの武田薫氏だ。
「陸連関係者の間でも死人が出るかもしれないという声があるほど。例えばケニアの選手は具合が悪くなれば、その時点でレースを棄権するでしょう。けれども、日本の選手はそうはいかない。沿道は日の丸だらけ。頑張れ、頑張れという大声援の中、走るのをやめるわけにはおそらくいかないでしょう。91年9月に行われた世界陸上東京大会のマラソンは6時スタートでしたが、それでもレース後の選手たちはゲッソリしていた。レース自体が危険を伴ううえに、そもそもマラソンは夏の競技ではない。東京五輪の優勝タイムは2時間15分前後と予想されていますが、現在、2時間切りが注目されている競技です。陸連もマラソンが本来、夏の競技でないことは百も承知している。実際、世界陸上の83年ヘルシンキ大会、87年ローマ大会には当時、脂の乗っていた瀬古利彦も中山竹通も派遣していませんから。夏場のマラソンでは本来の力を出せるはずがないと分かっていたからです。なのに東京だからといって、目標を五輪に置くことはマラソン界の動きに逆行している。東京五輪が終わった後の日本のマラソンが心配です。場所も時間も決まった以上、その危険性やマラソン界の今後の問題点をいまから議論しておくべきだと思いますね」
いずれにしても、東京五輪のマラソンは別の意味でかつてない注目を浴びるレースになる。