合同自主トレでは故障を隠そうとする新人の動きを見逃すな
「どうです。力感がないように見えて、スピンが利いてる。即戦力ってわけにはいかないでしょうけど、理想的なフォームでしょう?」
新人合同自主トレ初日のこと。オレが担当した高校生右腕がキャッチボールを始めたんで、そばで見ていた監督に水を向けたんだ。
「そうですね。先が楽しみじゃないですか」
新年早々、監督のまんざらでもなさそうな表情を見て気分が良くなり、つい気が緩んだ。
そういや、キャンプ前に一度はラウンドしたいよなぁ、なんて思いながら、その場で無意識のうちにゴルフスイングを始めたそのときさ。
「おまえ、そんなことしてる場合かよ。選手の動きをよく見ろって、いつも言ってるだろうが」
部長がすっ飛んできて、年明け早々、説教だ。
「自主トレまでにやっておく練習メニューは渡しているし、体をまったく動かしていないはずはない。けど、高校生が練習中に首脳陣、報道陣、ファンと、これだけ多くの視線を浴びたのはおそらく初めてだろう。どうしたって余計な力も入るし、故障しないとも限らない。ちょっとしたケガであっても、自主トレ開始早々、リタイアできるはずもなく、無理をしているうちに大きな故障につながる可能性もある。といって自主トレ期間中に首脳陣はアドバイスできない。オレたちスカウトが選手の動きをチェックして、少しでもおかしなところがあれば、本人に確かめるとか、ブレーキを踏むべきだろ」