センバツ用にピックアップした投手がリストから外された理由
「おまえさぁ、まさか本気であのピッチャーをリストに載せたわけじゃねーよな」
センバツ期間中のことだ。部長から珍しく晩飯を誘われたもんで、てっきり、寒い中、ご苦労さんとねぎらってくれるのかと思ったら、梅田の居酒屋に入るなり説教だった。
部長の言う「あのピッチャー」とは、140キロ超のストレートを投げながら初戦で敗退した右腕のこと。オレの担当地区の選手だし、昨秋の時点でかなり速い球を投げていたから磨けば光ると思ってリストアップしたんだ。
「ありゃ、完全に野手の投げ方じゃねーか。東邦の石川もそうだけど、体の開きが早いから腕も早く前に出て、リリースポイントが丸見えだ。あれじゃ、いくら速い球を投げてもつかまるさ。悪いが、リストから外すからな」
そうはいっても、大学や社会人に行ってから良くなる可能性だってあるでしょ?
「いや、基本的な投げ方やフォームがなってないヤツは、どこまで行ってもダメさ。どれだけ体を鍛えようが、筋肉を付けようが、あの野手の投げ方自体が変わるわけじゃないからな。それよか星稜の奥川や横浜の及川がいいのはだれでも分かるけど、同じ初戦敗退でも面白いのがいただろ?」