コロナ禍に揺れるJリーグを緊急探訪【FC東京/湘南】
新型コロナウイルスの感染拡大でJリーグが、2月26日から3月15日までの公式戦全94試合の延期を決定してた。終息どころか、感染者増加の一途を辿る現状に各クラブは不安と苛立ちを覚えつつも、試合再開に向けて調整を続けている。選手・関係者への感染を阻止するため、彼らは練習の一般公開やファンサービスを中止。報道陣の取材対応にも制限をかけるなど、ピリピリしたムードを漂わせている。そんなJクラブの〈今〉を探った。
■FC東京・田川亨介「今できることをやるしかない」
気温10度を下回り、どんよりとした曇り空に見舞われた4日。FC東京が、初めて練習を報道陣に公開した。7対7の実戦形式など密度の濃い内容が1時間半にわたって行われる中、橋本拳人や室屋成ら日本代表勢らもキレのある動きを見せていた。
「(リーグ中断が決まった)先週は選手たちも『気もそぞろ』という感じだった。戦術的内容をやってもあまり乗ってこなかったんで、ゲーム形式とかボール回しを多くして集中力を高めるように仕向けました」と長谷川健太監督は非常に難しいマネージメントを強いられたことを明かす。
それでも3月に入ってからは「18日の再開を目指してしっかりやろう」とスイッチが入った。
7日と11日には非公開の練習試合も組み、実戦感覚を養っていくという。
「中断になって練習量が落ちるかと思ったけど、むしろ激しくなった。試合が空いて筋トレとかフィジカル強化もできるようになったし、連携を改善する時間も取れた。(2月23日の)清水戦では選手間の距離が遠くなる時間帯があったので、そこをしっかり埋めたいですね」と室屋も明るい表情を見せていた。
4カ月後に迫った東京五輪を目指すU-23日本代表世代の選手にとっては、貴重なアピールの場が減ったことになる。しかし、田川亨介は「そのことはあんまり考えてません。今できることをしっかりやるしかない」と割り切っている様子。今は自身のレベルアップに全力を注ぐつもりだ。
FC東京はこの先、ACLの日程が5月以降にずれ込み、6月からは本拠地・味の素スタジアムが東京五輪のため使用不可になるという苦境ものしかかる。J1王者にあと一歩まで迫った昨季も、ラグビーW杯のためにアウェー8連戦を強いられて終盤のガス欠につながった。
だからこそ、今季はどんな状況でも乗り切れるタフさが求められてくる。きかこね今をどう有効活用するかは重要なポイントに違いない。
経営側は厳しい見通し
翌5日に訪れた湘南は、人気のない練習場で選手たちが浮嶋敏監督の指示の下、紅白戦に挑んでいた。ノルウェー代表FWタリクと35歳のベテランFW石原直樹らを筆頭に今季の湘南は競争意識が高い。
士気の高さはFC東京以上と言ってもいいかもしれない。
21日の開幕・浦和戦でゴールを挙げた元日本代表の山田直輝は「僕らは(チョウ・キジェ監督のパワハラ騒動が起きた)去年の夏の方が大変でしたよ。湘南だけ振り出しに戻されるような感じだったから」と半年前の修羅場を思い浮かべ、しみじみ語っていた。
「もちろんコロナウイルスも心配だけど、今を〈休み〉と取るか〈チームビルディングの時間〉と捉えるかで全然違ってくる。監督も『気持ちを切らさず取り組んでいく』と強調してましたし、僕ら経験ある選手がうまく引っ張っていきたいと思います」と彼は語気を強める。
■湘南・齊藤未月「過密日程になった方が有利かも」
数々の浮き沈みを経験してきた年長者の発言に若手のリーダー・齊藤未月も呼応する。
「再開後は試合が詰まってくるし、連戦できつい時期も来る。そこでタフに戦えることを示すためにも、今の時間を大事にしなきゃいけない。過密日程になった方が、むしろ湘南には有利かもしれない。そう思って前向きにやっていきます」
このように両クラブとも現場は通常通りの活動を続けている。「再開がズレ込んだとしても日々のトレーニングをしっかりやるしかない」という思いも共通している。
しかしながら、経営を預かる立場の人間はそうはいかない。FC東京の大金直樹社長は「終息宣言なりが出ないと18日の再開は難しい」という厳しい見通しを口にした上で「経営の原資が減るのは間違いない」と顔を曇らせたのだ。
「単純にどのくらいの損失が出るかを試算していますが、週末開催(のドル箱カード)だった(2月29日の)横浜戦と(3月8日の)浦和戦が飛んで、代替試合が平日になるのか、土日なのか、それで収入が大きく違ってくる。スポンサーメリットも減るし、全体的に経営がプラスになることはまずない。3月の試合がなくなったことでキャッシュフロー上、厳しいクラブもあると思う。そこはJ側が個別に対応していると聞いています」と苦しい胸の内を明かした。
昨夏に明らかにされた2018年度のFC東京の営業収益は約48億5000円で前年比2億5000万円アップ。スポンサー収入が上昇傾向にあっただけにコロナの影響による経営いあああたのダメージは痛い。スポンサーは基本的に年間契約だが、状況次第では「急激な環境の変化で見直したい」という申し出がないとも限らない。やはり不安は募る。
Jトップ10に入るビッグクラブのFC東京はまだ体力があるが、市民クラブの湘南はより深刻だ。同年の営業収益は約30億円。うちスポンサー収入が約12億円、入場料収入が4億8000万円となっているが、試合が減ったり、リーグ中断が長期化すれば、収入の屋台骨が揺らぐ恐れもあるのだ。
そういったシナリオを回避するためにも、事態の早期解決が強く望まれるところ。
「早く終息に向かってファンのみなさんが安心してJリーグを見にこれる環境になることが第一」という長谷川監督の言葉が両クラブ関係者全員の思いを代弁していた。