米国遠征2連敗なでしこ高倉監督と森保監督の「共通項」
アメリカで開催されている女子4カ国対抗「シービリーブズ杯」に参加中の女子サッカー日本代表(なでしこジャパン)は5日の初戦でスペイン代表に1ー3、8日の第2戦でイングランド代表に0ー1で敗れた。
最終戦の相手は世界女王のアメリカ代表(日本時間12日午前9時キックオフ)である。試合結果を待たずして、なでしこの最下位が(ほぼ)確定したと言っていいだろう。
スペインのFIFA世界ランク13位。なでしこの10位と比べて格下ではあったが、試合内容でも日本を圧倒した。
なでしこの選手と選手との間のギャップに巧みに侵入し、小気味良くパスをつないでいくスタイルは、まるで名門バルセロナと見まごうばかり。なでしこが武器にしていた「ボールポゼッションで上回って試合を優位に進める」という部分で日本をしのいでいた。
そして前半8分、右サイドで縦パスを受けたカルドソが、スピードとパワーで左SB遠藤純をはね飛ばして突進。彼女のクロスから先制点が生まれた。元々なでしこはスピードとパワーで勝負するアタッカーを苦手としていた。たとえばアメリカのモーガン、ラピノーといった選手には、何度も痛い目に遭ってきた。加えて遠藤の本来のポジションはMFだ。
高倉監督は左サイドからの攻撃を強化しようと2019年11月の南ア戦でも遠藤を左SBに起用したが、対戦相手のレベルが上がるとコンバートは厳しいかもしれない。
同じことは、2トップの一角に起用されたFW菅澤優衣香にも当てはまる。14分に決定的なシュートを放ったが、見せ場はこれくらい。もう少し確実なポストプレーを見せ、味方の攻撃参加を引き出して欲しかった。 そんな中、前半44分に右SB清水梨紗の浮き球右クロスを芸術的なダイレクトボレー&ループシュートで決めたFW岩渕真奈はさすが。2011年ドイツW杯優勝メンバーの面目躍如である。
もっとも、同じW杯優勝メンバーのCB熊谷紗季は後半3分、パスの出しどころがなく、仕方なくバックパスを選択したらコースが外れ、ボールをコルドバに奪われた挙げ句に致命的な決勝点を与えてしまった。
スペイン戦のなでしこは、全体的に運動量が少なかった。相手のパスワークに翻弄され、守備に追われる時間が長かったせいもある。しかし、GKからのビルドアップで攻撃を組み立てようにもDF陣は1タッチでパスを回せず、ボールを保持して味方を探すルックアップの時間も長く、プレスを受けてバックパスを繰り返すか、ロングボールで蹴ってはマイボールを失っていた。
イングランド戦は、スペイン戦に比べれば改善の兆しがあった。
イングランドがロングボールを多用したこともあるが、なでしこらしいパスワークで攻撃の形を作った。スタメン起用されたFW田中美南は、正確なシュートコントロールでゴールの枠内に飛ばし、2度の決定機を演出した。2016年から4年連続なでしこリーグの得点王であることを証明してみせた。
守備面では、イージーなミスが目立った。
開始早々、相手のプレスを受けてGKにバックパスをしようとした右SB清水が、相手とのスピード勝負でボールを奪われてGKと1対1の決定的なピンチを招いた。
13分にはMF三浦成美のショートパスが弱く、同じようにGKとの1対1の場面を作ってしまった。
いずれもGK池田咲紀子のビッグセーブで失点は免れたが、後半38分にバイタルエリアでCB三宅史織が味方への縦パスを相手にぶつけ、そこからのショートカウンターから決勝点を許した。
試合後に池田が「失点は個人の責任ではない」と前置きしつつ、「やってはいけないところでミスをしている」と指摘した。まさにその通り。スペイン戦でもイングランド戦でも、ミス絡みの失点だけにもったいない。
■いつまでたっても多くの選手をテスト
2試合を終えたところで、1月にタイで開催されたUー23(23歳以下)アジア選手権での森保ジャパンとの共通項に気付かされた。
東京五輪の女子サッカーに出場するのは12カ国(男子は16カ国)。グループリーグ3組の上位2カ国と1~3組の成績上位の2カ国がベスト8に進出する。
W杯もそうだが、グループリーグの初戦で負けた場合、2戦目は<最低でも引き分けて勝ち点1>をゲットしておかないとグループリーグ突破は厳しくなる。
森保監督はタイで初戦のサウジアラビア戦を1-2で落とした。2戦目のシリア戦は勝ち点が欲しい。ところが指揮官は初戦からスタメンを6人も入れ替え、後半43分にカウンターからシリアに決勝点を許し、この時点でグループリーグ敗退が決まってしまった。
アメリカで高倉監督も同じことをやった。
スペインに負け、臨んだイングランド戦で6人の選手を入れ替えた。
東京五輪のグループリーグは<中2日>の強行日程である。男女両監督ともにターンオーバーを念頭に置いての起用だろう。それが裏目に出た。
さらにもうひとつ、2人は共通項を持っている。森保ジャパンもなでしこジャパンも、いつまでたっても多くの選手をテストしているのである。
たとえば、アメリカ遠征の前に国際Aマッチ出場歴がひとケタだった選手が6人いた。高倉監督は、その中の3人(SB宮川麻都、FW上野真実、FW植木理子)を2試合にわたって起用した。本来なら今は、両チームとも完成度を高める時期ではないだろうか。
にも関わらず代表歴の浅い選手のテストを繰り返し、7月24日開幕の東京五輪に間に合うのかどうか、不安は尽きない。
ましてや男子のUー23日本代表は、新型コロナウイルスの影響で3月の強化マッチ2試合が中止になるなど、強化プランに狂いが出ている。
なでしこは、完成度の高かった2011年W杯優勝チームでも、ロングパスによるスピードとフィジカル勝負のイングランドには、グループリーグで0-2で負けている。
当時アメリカのスンドハーゲ監督は「ロングパスを簡単に蹴って日本にボールを渡すと(そこから)マイボールになかなかできない」と話していたものだが、それでもスピードとフィジカル勝負に徹し、W杯の翌2012年ロンドン五輪の決勝でアメリカはW杯決勝敗退の雪辱を果たした。
そもそも、なでしこの弱点を、台頭著しい欧州の各国は完全に熟知している。なでしこの選手たちに<スピードでもフィジカルでもライバルに立ち向かえ>と言うのは酷な話。やはり原点に立ち返り、パスをつなぎながらボール・ポゼッションを高める戦い方に磨きをかけるしか方法はない。
W杯を制した佐々木ジャパンは、長い時間をかけてコンビネーションを高めてチームをレベルアップさせたが、それにはメンバーを固定する必要があるだろう。
コラムの最後に――。スピードは天性のモノだが、スタミナは強化すればアップできる。
日本人選手の長所に献身性がある。守備においては二重、三重の包囲網で食らい付き、たとえマークをはがされてもすかさず他選手がリカバーしていく。攻撃でも、サイドの選手は何度も何度もタッチライン際で上下動を繰り返し、相対するサイドの選手の消耗を誘いたい。日本サッカーの大きく貢献した<オシム・スタイル>を目指したい。