コロナ禍での中断期間に揺れるJリーグを緊急探訪【広島】
開幕ダッシュに水を差され…6日間オフ決断とメリットとリスク
2月23日のJ1開幕戦で常勝軍団・鹿島を3-0で撃破し、2015年以来の王者奪回に向け、幸先のいいスタートを切った広島。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大で再開が5月9日までズレ込み、2カ月超もの長い長い中断を強いられることになった。城福浩監督は「ここでメリハリをつけないといいことはない」と3月27日の鳥取との練習試合の後、6日間のオフを決断。5週間で再びチーム状態を引き上げる覚悟だ。ベテラン・青山敏弘も「こういう時こそ個人の経験が生きる」と率先して引き締めを図っていく。
城福体制発足の2018年に2位と前年の15位から大躍進した広島。2019年も序盤は首位に立ったこともあったが、最終的には6位とタイトルには手が届かなかった。
だからこそ、今季に賭ける思いは強かった。
昨季は半年間をヒザの負傷回復に費やした青山が万全の状態に戻り、2019年にA代表で活動した佐々木翔、大迫敬介、荒木隼人、森島司らが成長。ドウグラス・ヴィエイラとレアンドロ・ペレイラの両外国人もフィットし、戦力的にもかなり充実した状態で開幕を迎えることができた。
鹿島を撃破して「さぁ~これから」という時にまさかのコロナショックが襲った。
再開予定が3月18日から4月3日と2度変更され、2003~2004年の横浜のJ1連覇や韓国代表で2012年ロンドン五輪銅メダル獲得の原動力となった池田誠剛フィジカルコーチはそのつど、選手のコンディションを上げていった。「今はケガ人もいないし、全員が公式戦を戦える状態」と3月26日の時点で自信を見せていた。
しかし、次の再開予定が5月9日となった以上は、このまま練習を続けていてもメンタルが持たないと判断。城福監督も池田コーチらと相談の上、休みを取ることにした。
「6日休むとベスト状態に戻すには10日プラスアルファの時間がかかる。それでもフレッシュにサッカーに取り組ませるためには今、オフを取った方がいい。クラブごとに考えは異なるけど、ウチはリセットを選びました」(池田コーチ)
20歳前後の若手が多い広島にとって、6日のオフはリスクも少なからずある。現に、プロ野球では阪神の藤浪晋太郎ら3人がコロナに感染している。関東や関西出身者も少なくないだけに長距離移動も心配だが、埼玉出身の東京五輪代表候補の松本泰志は「こっちの方が落ち着いてて安全。移動しない方がいいし、実家には帰りません」とキッパリと言い切った。
「今までいろんなチームで働きましたけど、広島の選手の規律の高さには驚かされることばかり。さすがは歴史あるクラブだと思う」と池田コーチも選手に全幅の信頼を寄せている。城福監督も安心してオフに踏み切れたのではないか。
■「この状態が半年続いたら…」
現場はスッキリした状態だが、コロナ対策を強いられる運営サイドは頭の痛い状況が続く。一例が年間チケットの再配置。「座席の前後左右を空けて収容率50%を目指す」というJリーグの要請に基づいて準備を進めなければならないのだ。
広島の本拠地・エディオンスタジアムは3万5000人収容。2019年の平均観客数は1万3886人なので50%には達していない。過去に日本代表戦を開催している規模ということで、前後左右を空けて観客を座らせることは可能だ。
しかしながら広島が快進撃を見せ、来場希望者が急造した場合は、チケット販売に制限をかける必要に迫られる。「サポーターの存在が自分たちの活躍の源」と語気を強める大迫ら選手にとっては、大きな逆風になりかねないのである。
Jリーグがアウェー観戦者に2カ月間、来場自粛を要望していることも痛い。近場の鳥栖や大分からの観戦者がいなくなり、熱狂的サポーターの多いFC東京やガンバ大阪戦でも観客減となれば、経営面のマイナスは否めない。
2018年度の広島の入場料収入は5億円だったが、その水準を大きく下回ることは必至だろう。
2018年度の広島のスポンサー収入は15億3000万円だったが、インバウンドの外国人客減や経済停滞によって、地元スポンサーの支援にマイナス影響がないとも限らない。実際に広島駅周辺の飲食店は、春休みの繁忙期であるはずの3月下旬に閑古鳥が鳴いていた。
「広島カープもサンフレの試合もないし、原爆ドームも閉まってるんじゃ~誰も来ないよね。この状態が半年続いたらウチもつぶれかねない」とお好み焼き店の店員はボヤくしかなかった。
こうした停滞感を打破するためにも早くJリーグが再開され、広島が5年ぶりのJ1王者に輝くことが強く求められるところだ。
「僕らにできるのは、しっかりと足元を見つめて、いつものプレーを続けることだけ。地道にやり続けた先に優勝がある。そこは勘違いしないでやりたい。苦しいことがあった時の方が強くなれる。僕はそう信じています」
ベテラン青山の言葉を糧に、広島はチーム一丸となって未曽有の困難に挑んでいくしかない。