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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

コロナ禍での中断期間に揺れるJリーグを緊急探訪【山口】

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霜田監督の強気と経営陣の苦悩

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、Jリーグもついに3度目の再開延期を決めた。5月2日再開予定となったJ2は、7カ月間で41試合消化を強いられる。1カ月当たり6~7試合、週2ペースが隔週以上で続く計算だ。前代未聞の超過密日程を視野に入れ、日本サッカー協会(JFA)の元技術委員長・霜田正浩監督率いるレノファ山口FCは選手層の拡大に努めている。「今季はJ1昇格が1枠減って2チームのみになりましたが、あくまでそこを狙っていく。イレギュラーなシーズンだけに対応力が最重要ポイントになる」と指揮官は強気の姿勢を見せた。

■「考えながら走る」という良い練習ができている

 霜田体制が発足した2018年は8位、翌2019年は15位とJ1昇格争いに本格参戦できなかった山口だが、小野瀬康介(G大阪)やオナイウ阿道横浜)ら有望な若手を<個人J1昇格>させた指揮官の実績は高く評価されている。

 今季もレンタル移籍中の東京五輪代表候補である高宇洋、小松蓮らが飛躍を期している。

「彼ら個人を伸ばしつつ、チームとしてもJ1昇格も果たす」という大いなる野望を抱き、霜田監督は3年目に突入。2月23日のJ2開幕戦では、資金力で上回る京都に1ー0で勝利。幸先のいいスタートを切った。

 その矢先にコロナ騒動が発生。リーグは中断を余儀なくされた。当初は3月18日再開予定だったために通常通りの調整を続けていたが、4月3日にズレ込んだ時点で4連休を確保。選手をリフレッシュさせた。

 そして今回、3度目の延期が決まり、さらに1カ月超の中断期間が続くが、「今後はサイクルは変えません」と霜田監督は断言。週末に練習試合を組み、実戦を通して強化を図るという。

「J2開幕節の全試合を見て、基本布陣や前線からプレスの有無、ポゼッション主体か否かなどを分析。おおむね3グループに分けました。それを視野に入れてトレーニングをしています。再開後は中2~3日で実戦があるので、細かい作業はできなくなる。今の時間を生かすことが大事なんです」と、技術委員長時代の分析ノウハウを駆使したアプローチを行っている。

 練習中に複数のビブスを使うのはもちろんのこと、ハチマキの色で組み分けをするという「高難度のオシム流」も取り入れている。選手の判断力や応用力を高めるために工夫を凝らすのが、霜田監督のやり方だ。

「ハチマキを使った練習は人生初。昨年まで在籍した松本山雅や金沢はバチバチ戦う対人練習がメインでしたが、考えながら走るという良い練習ができています」と2019年トゥーロン国際大会出場歴のある大型FW小松蓮は言う。

 同大会参戦組で昨夏にガンバ大阪からやって来た高宇洋も、「山口は個人にフォーカスできる環境。監督からの期待も感じるので前向きにやれてます」と笑顔を見せる。コミュニケーションを大事にする霜田流の効果もあり、今の山口は風通しの良い空気ができ上がっている。

 それは異例の事態が続く今季J2を戦い抜く上で大きな武器になるだろう。

■小規模クラブに収入源のダメージは深刻

 現場はポジティブに中断期間を過ごしているが、悩ましいのはクラブ経営陣だ。近年の山口は2017年度が2900万円、2018年度には5300万円の経常赤字を計上。2019年度はスポンサー収入増もあり黒字転換見込みだが、コロナショックで今年3~4月は入場料収入が全く入ってこなくなった。

「年間契約スポンサーさんからの新年度分の振込が1~2月にあったばかりなので現時点でキャッシュフローは回っています。ただ、コロナの影響が秋まで続くようだと厳しくなりますね」と柴田勇樹取締役経営管理部長は顔も曇らせる。

 さらに深刻なのは再開後の集客だ。平日開催が増える上に、Jリーグはコロナ対策として座席の前後左右を空けて収容率50%以下を目指すことをクラブに要請。アウェーの観戦者も、2カ月間は自粛もお願いするという。

 山口の場合、本拠の維新みらいふスタジアムの収容人数は1万5000人。昨年の平均観客数5653人と同等の来場者があるとすれば、7500人の座席に効率よく割り振る必要に迫られる。

「平日の観客は週末よりも平均3割減。東京五輪が延期となり、夏休み期間に試合を組めるので平日開催の減少分を埋められると見ていましたが、座席間隔を空けるとなるとウチのメインであるファミリー層が減るのではないか、と危惧しています。コロナによる出控えも気がかりな要素です。アウェー観客が減るのも痛い。ウチは福岡、北九州、岡山戦だと1000人超が来場するので、そのマイナスは3試合で500万円程度に上る。入場料収入だけで数千万減を覚悟しないといけないと考えています」(柴田氏)

 2018年度で営業収益約11億円の小規模クラブにとってダメージは深刻だ。取り返すのは容易なことではないが、再開後に山口が快進撃を見せれば、客足がグッと伸びることもあり得る。

 そういう意味でも、霜田監督の手腕が重要になってくるのだ。

「若手も含めて全員が同じレベルで戦えるようなチームにしたい」と意気込む指揮官は、2位以内という目標を達成できるのか。

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