ちゃんこにも異変が…集団生活を送る相撲部屋のコロナ対策
退院したとはいえ、高田川親方(53=元関脇安芸乃島)はじめ、計7人の新型コロナウイルス感染者が出た大相撲。相撲部屋は集団生活が基本であり、陽性反応が1人出たらクラスター化しかねない。それだけに各相撲部屋は知恵を絞って対策に励んでいる。
特に力士数が多い部屋はどんな策を講じているのか。
■春日野部屋は配達物も消毒
関取の栃ノ心、碧山、栃煌山を筆頭に力士19人を抱えている春日野部屋。春日野親方(57=元関脇栃乃和歌)はコロナ対策について、「とにかく外部との接触を極力断つこと」と、こう話す。
「ウチは住み込みのマネジャーがいるので、ちゃんこの買い出しなどは彼に任せています。幸い、後援会の方などの気遣いで差し入れもあり、買い出しは足りないものが中心です。当然、外部の人は部屋の中に入らせないし、配達物も生もの以外はいったん箱を消毒して1日置いた後に開封するようにしている。ちゃんこも大皿や鍋をみんなで囲むのではなく、一人一人、作って出すようにしている。若い衆は大部屋住まいですが、ウチは部屋が広いので、なるべく離れて過ごすようにさせています。部屋でもマスク着用の義務付けや、頻繁な消毒はずいぶん前からやっています。力士らには『今は苦しいだろうけど、もうしばらくはこの生活を続けてほしい』と話しています」
■陸奥部屋は買い出しにネットを活用
横綱鶴竜ら、力士16人が所属する陸奥部屋はどうか。
陸奥親方(61=元大関霧島)は以下のように話す。
「新型コロナウイルスの危険性が叫ばれていた大阪場所(3月)のときから、マスク着用や手洗いはもちろん、うがい、消毒、検温などは徹底しています。例えば玄関のドアノブや水道の蛇口のように、複数人が触るものは、そのたびに消毒している。体温は朝と夕方、必ず2回測っています」
ちゃんこの食材の買い出しは、積極的にネットを活用。配達してもらえるものは極力、それで購入しているという。
「それでも足りないものは、できるだけ少人数で買い出し。外出手帳を用意してあるので、外に出るときは必ず記入するようにしています」
そんな陸奥親方が心配しているのが、故障持ちの力士たちだ。
「新型ウイルスでなくとも、腰などが悪いので病院に行かなければいけない力士もいます。ただ、人の多い、大きな病院に行かせるのは、どうしても躊躇してしまいますからね……。今のところは大丈夫ですが、なるべくそうでない病院に行かせるように考えています」
■尾車部屋は週休2日制を採用
協会のナンバー2、事業部長を務める尾車親方(63=元大関琴風)は、15人いる力士に「『感染しても、感染させても大変なことになる』と、頻繁に話しています」と言う。
消毒液は稽古場、各部屋、炊事場、トイレに常備させ、何かひとつ行動するたびに消毒を行っている。
稽古にも工夫がある。
「接触禁止なので相撲が取れず、基礎稽古ばかりですね。そんな中でも、中村親方(38=元関脇嘉風)が、自身が現役時代に教わったトレーニングを若い力士にやらせている。例えば、腕立ての状態で上体を跳び上がらせ、手を叩く。これを1分やって1分休むというのを何セットとか。土俵の周りで、力士に『右、左』と指示して、すり足で左右に動かせることもしている。慣れないトレーニングだからか、みんなヒーヒー言ってますよ」(尾車親方)
尾車部屋では、コロナ感染が拡大して以降、週休2日制を採用した。
「水曜と日曜日を休みにしました。先が見えない中で、力が入ってケガをするのが怖いという事情もありますが、これは押尾川親方(40=元関脇豪風)が若い衆に意見を聞いて取り入れたもの。私が『オレらの時代は365日稽古だったぞ』と言っても、今の若者には通じませんからね。むしろ、しっかりやらせて適度に休んだ方が集中できる。状況が状況なので、かける言葉は難しいですが、若い衆には『しっかりやってしっかり食べて、体をつくるチャンスだぞ』とハッパをかけています。まあ、今は外食ができず、全員が毎日部屋で3食食べるものだから、普段は余りがちになる米、それと肉の消費量が凄いことになっていますが(笑い)。差し入れをしてくれる後援会の方に感謝しろよ! なんて言ってます(笑い)。それでも、きちんと注意を聞いてくれる力士たちは私の誇りですよ」(尾車親方)
■鏡山部屋は“在宅勤務”を導入
相撲部屋によって、コロナ対策はそれぞれ。力士が2人しかいない鏡山部屋では、“在宅勤務”を導入しているというから徹底している。
鏡山親方(62=元関脇多賀竜)が言う。
「ひとりは結婚して家庭もあるので、『当分は稽古場に来なくていい。自宅で体を動かしていてくれ』と伝えてあります。彼は子供もいるので、万が一が起こった場合が心配ですからね。ヒザに故障を抱えていることもあって、治療のためのいい機会でもある。力士はどこかしらケガを抱えているもの。今は稽古などままならない状況ですが、せめてケガの治療という点ではプラスに捉えるべきでしょう」
ピンチをチャンスに変えられるか。