64年東京五輪で最終聖火ランナー務めた坂井義則さんの最期
1964年東京五輪・最終聖火ランナー 坂井義則さん(上)
1964年10月10日、国立競技場での東京オリンピック開会式。93の国と地域の5000人を超える選手団が入場した午後3時すぎだ。7万4000余人の大観衆が見守る中、最終聖火ランナー坂井義則が右手でトーチを持って競技場に姿を現した。トラックを走り、聖火台への階段を一気に駆け上がった。
「聖火台に立ちます。日本の秋の大空を背景にすくと立った坂井君。燃えよ、オリンピックの火。フェアプレーの精神で競え、世界の若人……」
NHKアナの北出清五郎がそう実況した際の視聴率は、何と民放局と合わせれば80%を超えた。
あの日から56年の星霜を経た。生前、坂井は私に当時を語っている。
「組織委員会からは『きれいなフォームで、見栄えよく、3分でやれ』と言われていた。聖火台の下には4機のガスボンベがあり、係員がバルブを開くとガスが上がってくる音がかすかに聞こえる。そこで『やってやる!』という思いでトーチを近づけ、点火したわけだね。後で映像を見たらぼくは笑顔だったし、聖火台からは富士山がはっきりと見えた。あの光景も忘れられない」