リードに悩む阿部慎之助は「サインイップスになります」
私は現役時代、捕手をクビになり、外野に転向した人間だ。ましてや巨人に縁もゆかりもない外様コーチである。
すでに球界を代表する捕手だった慎之助は当初、「何ができるんだ」といった感じで私を見ていたに違いない。だから、近くで寄り添うことにした。2人だけでミーティングを開き、不満やグチを聞くこともあった。
■「秦さんのミーティングは細かくて長い」
慎之助が行きつけの札幌の居酒屋で行った「捕手会」は、無礼講で何を言ってもいい会にした。強い口調で「秦さんのミーティングは細かくて長いんですよ」と抗議されたこともある。そうはいっても、コーチとして伝えなければならないことは多い。慎之助の影響力は原監督と並んで大きい。「本当は投手コーチが言うことだけど、慎之助が言った方が効くから」とメッセージを投手陣に伝えてもらったこともある。
12年は打率3割4分、打撃部門2冠でセ・リーグMVPに選出された。巨人の日本一を含めた5冠の快挙を牽引したのは慎之助だ。私は大黒柱の負担を多少なりとも軽減できたのだろうか。