池江「五輪決定」でバカ騒ぎ メダル煽るマスコミ過剰報道
救世主現る、か。
白血病を克服した池江璃花子(20)が4日、東京五輪代表選考会を兼ねた競泳日本選手権女子100メートルバタフライで優勝。57秒77のタイムは100メートルバタフライの五輪派遣標準記録(57秒10)には届かなかったが、400メートルメドレーリレーの派遣標準記録(57秒92)を突破し東京五輪のリレーメンバーに入った。
16歳で出場した2016年リオ五輪は7種目に参戦。メダルなしに終わったものの、得意の100メートルバタフライ(5位)など、3種目で入賞を果たし、20年東京五輪では複数のメダルが期待された。
■2019年2月8日
そんな池江が「人生のどん底に落とされた」のが2019年2月8日。急性リンパ性白血病と診断され、「あの日を一生忘れることはできない」と言った。以前は「不治の病」といわれていた白血病も、現在は治療の進歩により社会復帰できるケースは多い。それでも毎年多数の患者が命を落としている。長い闘病生活を覚悟した池江は、20年の東京五輪出場を諦めざるを得なかった。
ところが、コロナ禍により東京五輪は大会史上初めて1年延期が決まった。池江の「時計」が早回りする。
19年12月に退院して「2024年パリ五輪でのメダル獲得」を目標に掲げたが、20年に入ると驚異的な回復ぶりを見せ、同年8月下旬の東京都特別水泳大会で競技復帰を果たし、わずか7カ月で五輪の代表切符を獲得したから、マスコミは大騒ぎ。5日の一般、スポーツ紙はこぞって1面で奇跡の優勝、五輪代表内定を大きく取り上げ、テレビのワイドショーも池江の復活ドラマを長々と報じた。
東京五輪への逆風
「流れが変わるかも知れません」と言うのは、国士舘大の非常勤講師でスポーツライターの津田俊樹氏だ。
「安倍前首相はコロナで1年延期になった東京五輪は『完全な形で開催したい』と言った。それが、コロナ対策の遅れもあって、感染は終息に向かわず海外観客の受け入れは断念した。国内では相変わらず東京五輪の開催に否定的な声が多い。森喜朗前組織委員会会長の女性蔑視発言による辞任や全柔連の会長を兼務する日本オリンピック委員会山下泰裕会長の身内の不祥事隠蔽、空手の女子代表に対するパワハラ事件など、今年に入ってからも東京五輪や日本のイメージが悪くなるニュースばかりだった。そんなところに、絶対に無理だと思っていた池江選手が東京五輪の代表になった。スポーツマスコミにとって久々の朗報です。日本人は、逆境からの復活ドラマが大好きです。スポーツ紙はこのような記事で読者を引きつけるのは得意中の得意。池江選手の今回の代表入りで、五輪開催に消極的なムードが一掃できるとまではいわない。それでも風向きは変わるかもしれません。世論なんてあっという間に右から左ですから」
組織委員会にとっても救世主だろう。池江は昨年7月、国立競技場での五輪開催1年前セレモニーで世界のアスリートに対し、自身の闘病生活を交えながらメッセージを送った。この時は組織委員会に利用されたわけだが、コロナのパンデミック(世界的大流行)で吹き荒れる大会への逆風を吹き飛ばすことはできなかった。
4日のレースで400メートルメドレーリレーの代表入りを決めた池江が8日の100メートル自由形決勝で派遣標準記録53秒31を突破すれば2枚目の代表切符を手にする。このレースで4位以内に入り、リレーの派遣記録(54秒42)を上回れば400メートルリレー代表にも内定する。
「五輪に後ろ向きな日本国内の事情を察する国際オリンピック委員会のバッハ会長まで『東京で会うことが待ちきれない』と、池江選手に異例のメッセージを寄せた。もしも複数種目で代表になれば、まさにどん底から這い上がってきた池江選手の泳ぎを五輪で見たいと思う国民はますます増えるでしょう」(前出の津田氏)
■3年先が4カ月後
だがしかし、だからこそ池江の体は「大丈夫なのか」と心配する声もある。スポーツファンで寺田病院(東京)名誉院長の澤井廣量氏が言う。
「五輪代表を決めた池江選手の泳ぎには感動しました。一方で体はまだ細く、闘病生活で落ちた筋力は全盛期までは戻っていない印象です。ここまでの回復ぶりは確かに驚異的です。とはいえ、3年後のパリ五輪で狙うはずだったメダルは、わずか4カ月後の東京大会で求められることになった。本人はパリ五輪が目標と公言しているのに、マスコミがメダル、メダルと煽り、日本中の期待が膨らめば、頑張り屋でメンタルの強い池江選手には大きなプレッシャーがかかる。開幕までの短期間で無理をしないか心配です。東京五輪の池江選手に関してだけは、過度な報道は控えて欲しいです」
東京都では5日、新たに249人のコロナ感染が確認された。都内の感染者は5日連続で前週を上回り、増加傾向が続いている。五輪開催可否はまだ見えないが、この先池江の心身を追い込むのは、国民の期待を煽るだけ煽るスポーツマスコミということだ。