笹生優花が全米女子最年少V“賞金稼げる”ドライバー飛距離
【全米女子オープン】最終日
こんなドラマを誰が予想したか。
通算7アンダー首位発進のL.トンプソン(26)が後半に崩れ、同組で1打差の笹生優花(19)と6打差から追い上げた畑岡奈紗(22)が通算4アンダーでホールアウト。笹生は日本と母親の母国であるフィリピンの二重国籍。海外の試合はフィリピン国籍で登録しているが、「日本勢」同士の戦いはプレーオフ3ホール目に笹生が2メートルのバーディーパットを沈めて勝負を決めた。19歳351日の優勝は大会史上最年少記録だ。
「前半にスコアを落としたときはがっかりしたけど、キャディーがまだチャンスがあるから、しっかりプレーしよう。自分を信じろと言ってくれた。このコースを初めて見たとき、まさか勝てるとは思いもしなかった。ここでプレーできることがうれしい。信じられません。家族にありがとうと言いたい。世界一になること。全米女子オープンに勝つことが夢でした。まさか、その夢がかなうとは」(笹生)
8歳からゴルフを始め、アマ時代は世界各国を転戦。英語、タガログ語、日本語が堪能で、ゴルフに関しては韓国語や中国語も話せる。すでに外国人キャディーを起用し、優勝直後のインタビューも流暢な英語で答えていた。
高校卒業後は米国の大学へ進学することが内定していたが、19年に国内のプロテストに合格。進学せずにプロに転向し、米女子ツアー参戦を夢見てきた。今年12月にも米女子ツアーテスト(QT)を受けるつもりだった。今回の優勝で100万ドル(約1億1000万円)の賞金と今大会の10年間シード、次週からの米ツアー出場権(申請後はツアーメンバー)を獲得した。
飛ばし屋L.トンプソンを圧倒
笹生の強みはドライバー飛距離だ。
日本女子ツアー2020-21年シーズンはランク首位の262.00ヤード。渋野日向子(22)の236.83ヤードをはるかにオーバードライブする。
指導する尾崎将司が、「原英莉花がどんなに頑張ってもかなわない」というパワーは関係者によると、「280ヤード以上を楽々飛ばすポテンシャルは十分にある」と言う。
いま世界のプロゴルフ界は男女ともパワーゴルフの時代に突入している。マスターズに勝った松山英樹(29)の平均ドライバー飛距離は296.8ヤード(ランク99位)。米男子ツアーには310ヤードを超える選手が12人もいる。
松山が「もっと飛ばしたい」とスイング改造や体づくり、そして道具選びに余念がないのも、「ドライバー飛距離300ヤード台と310ヤード台では稼ぎが倍違う」と言われているからだ。それだけ飛距離が成績(=賞金)に直結しているのがわかる。
全米ゴルフ協会(USGA)は1993年からディスタンスリポートを発表しており、LPGAプロのドライバー平均飛距離は93年227ヤード、2000年237ヤード、10年247ヤード、20年253ヤード、年々伸びている。
「米女子ツアーの賞金ランクトップ10のうち、2位P.タバタナキッド(281.31ヤード・3位)、3位N.コルダ(274.83ヤード・9位)、5位J.コルダ(277.63ヤード・7位)、7位L.トンプソン(278.05ヤード・6位)、8位B・ヘンダーソン(278.78ヤード・5位)、この5選手がドライバー飛距離ランクでもトップ10に入っています。飛距離がすべてではありませんが、獲得賞金に大きく貢献しているのは間違いありません」(ゴルフライター・吉川英三郎氏)
笹生は最終組で一緒に回ったメジャー1勝のトンプソンを圧倒した。
小暮博則プロが笹生のスイングをこう解説する。
「マキロイによく似ているといわれます。テークバックはノーコックで体を使ってクラブを上げて、トップでコッキングが入ります。肩甲骨回りや胸部に柔軟性がないと深いトップはつくれません。切り返しからは体全体を使ってクラブを振り下ろしているからヘッドスピードを加速させて飛ばすことができます。体の動きもヘッドの動きもシンプルであり、タフな会場になれば強さを発揮するスイングだといえます」
飛距離を犠牲にした渋野日向子との差
笹生は自身のユーチューブ動画で「振れば振るほど曲がらない」と語っている。
米ツアーで賞金を稼ぐことができる可能性を秘めたスイングであることがよくわかる。
ちなみに予選落ちした渋野日向子は今大会でフェアウエーを外したのが2日間で4ホールだけと方向性はよかった。しかし肝心のドライバー飛距離234.00ヤードでは予選通過すら厳しいことがよくわかる。
渋野は全英女子オープンに勝ち、国内4勝をマークした19年シーズンは248.21ヤード(12位)と飛んでいた。その後に飛距離を犠牲にして方向性を求めたスイング改造からすべての歯車が狂ってしまったといえる。
笹生は現在のような思い切りのよいゴルフで、2つ目のビッグタイトルを狙って欲しいものだ。