鈴木誠也を待ち受ける「調整苦と故障禍」…MLB交渉再開もプレシーズン短縮で苦戦必至
日本時間14日午前、新労使協定締結を巡ってロックアウトに突入していたメジャーリーグで、機構(MLB)と選手会による交渉が再開した。
昨年12月1日(現地時間)以来43日ぶりの会談はオンラインで行われ、MLB側から新たな提案が出されたが、選手会側の納得が得られず、再び、物別れに。次回交渉は未定だという。
複数の米メディアによれば、MLB側は大リーグ最低保障年俸の引き上げやFA取得期間の短縮、ドラフト制度の見直しまで踏み込んだ改革案を提示したが、選手会側との歩み寄りは見られなかった。
ロックアウトによって移籍交渉が凍結されている広島の鈴木誠也(27)にとっては、一歩前進といっていい。米CBSスポーツ電子版(現地時間5日)によると、「契約が決まっていないFA選手のトップ10ランキング」で6位にランクイン。4年総額70億円規模の契約になると予想している。
ただ、いくら交渉が再開したからといって、早期合意に至るかどうかは依然として不透明のまま。決裂の要因となっている最低年俸の引き上げや収益分配方法の見直しといった主要テーマについての議論は、お互いの主張に大きな隔たりがあるといわれている。米AP通信によれば、3月31日の今季公式戦開幕を予定通り迎えるためには、同5日をめどに新労使協定を締結する必要があると報じている。
「選手会側の交渉責任者であるクラーク専務理事は昨年、公式戦の減少による選手の待遇問題について好条件を勝ち取るなど、タフネゴシエーターで知られている。ギリギリまで落としどころを探れば合意は遅れる。マンフレッド・コミッショナー率いる機構側は3月31日の開幕を迎えることを優先するでしょう。仮に延期されれば、放映権料などの問題が浮上するからです。2月中旬からのキャンプ、同月下旬からのオープン戦が予定通り行われる保証はないだけでなく、開幕までの調整期間が短くなるのは避けられそうにありません」(放送関係者)
公式戦開幕を優先し、プレシーズン期間が短縮されるようなら、移籍1年目となる鈴木にとって、その影響は小さくない。
「仮に3月5日にロックアウトが解除されたとしても、鈴木はそこからいくつかの球団と交渉をすることになる。契約まで1週間程度の期間を要した場合、その翌日から練習参加したとしても、開幕まで3週間あるかどうか。ただでさえ米球界での経験がない鈴木は、日米の野球の違いや時差の問題など、異国の環境に適応しなければいけませんからね」(球界OB)
大谷翔平、松井秀喜も苦戦
実際、日本人打者の多くは、渡米1年目に苦戦を強いられている。
昨季、投打二刀流で大活躍したエンゼルスの大谷翔平は1年目のオープン戦で投打ともに結果を残すことができなかった。打者としては、メジャー投手のテンポやリズム、速く鋭く動くムービングボールへの対応に苦慮。体が上下動し、急いで当てにいくような打撃になり、凡打の山を築いた。
開幕直前にマリナーズのイチローに助言を仰ぎ、右足を上げる打ち方からノーステップ打法に修正。体重移動が改善され、後ろに体重を残した「ステイバック」で打てるようになったことで開幕から結果を残したとはいえ、高い適応力を持つ大谷をもってしても、いきなりバカスカ打てたわけではない。
巨人からヤンキースに移籍した松井秀喜も1年目は大谷と同様、タイミングの取り方に苦心。ルーキーイヤーは持ち前の長打力が鳴りを潜め、「ゴロキング」と揶揄された。
鈴木は日本球界屈指の打者として大きな期待を寄せられているが、メジャーの野球に適応するにはある程度の時間が必要かもしれない。
「故障の心配も尽きません」とは、前出のOB。
「調整期間が短くなれば、当然、故障のリスクも高まる。メジャーでは2020年、コロナ禍によりキャンプが中断、開幕は7月23日に延期された。延期期間中はまともに練習ができなかった上に、キャンプインは開幕のわずか3週間前の7月3日。コロナ対策による数々の制約も重なり、多くの選手が調整に苦心した。ドジャースのエース、カーショーが開幕直前、背中の張りで開幕戦の登板を回避するなど、多くの負傷者が出ました」
■95年スト時は45人が故障
今回と同様、労使交渉のもつれからストライキが決行された1994~95年も、95年4月3日にストが解除されてから25日の開幕まで3週間ほどしかなかった。多くの選手が急ピッチで調整を強いられた結果、当時、最多の45選手が負傷者リスト入りした状態で開幕を迎えたという。
現在、国内で自主トレを行う鈴木は代理人に全幅の信頼を置き、メジャー移籍の意思は全く変わっていないという。高いモチベーションを維持しているものの、「新しい環境への適応」と「短い調整期間による故障リスク」という2つの高いカベを乗り越えることができるか。