羽生結弦の北京五輪を“兄弟子”が斬る「4A挑戦は大正解だった」 現役続行か引退か?
佐野稔(日本フィギュア界初の国際大会メダリスト)
北京五輪のフィギュアスケートは波乱の連続だった。男子は五輪3連覇を狙った日本のエース・羽生結弦(27)がフリーで4回転アクセル(4A)に挑むも、決め切れずに4位となり、メダルを逃した。女子では史上最強といわれたワリエワ(15、ROC=ロシア・オリンピック委員会)にドーピング違反が発覚。ショート、フリーともに精彩を欠いて4位に終わった。20日、全競技を終えた羽生は今後について「フィールドは問わない。それがアイスショーなのか競技なのか。それが報われるか報われないのか。僕にはちょっとわからない。いろいろ考えた上で」と現役続行は明言せず、3月の世界選手権(フランス)の出場も未定だ。
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1976年インスブルック大会に出場し、翌77年世界選手権で日本人フィギュア選手として初の銅メダルを獲得した佐野稔氏(66)は今大会をどう見たのか。1回目は同じ都築章一郎氏の門下生で佐野稔氏を「兄弟子」と呼ぶ羽生の滑りと今後について聞いた。
◇ ◇ ◇
──フリーでは4Aに失敗するなど4位に終わりました。
「北京大会での話題は4回転半(4A)に集中していました。ただ、フリーの4Aは非常に質の高いものでした。右足だけで氷の上にバッと立つだけ、というところにきていると思う。あともう少し回転して、右足だけで着氷すれば完成です。フリー前日の練習で右足を捻挫しながらも、(3A扱いとなった)昨年12月の全日本選手権よりも、アクセルに入るスピードが速く、回転も本番ではよくなっていましたから」
──羽生は大会後の会見で、「4Aを降りたい気持ち、自分のプログラムを完成させたい気持ちはあるが、アクセルは完成してしまったと思っている自分もいる。これから先、競技をやっていく上でどんな演技を目指すか、何を皆さんに見せていくか、考えているところ」と話しました。
「私は、『次やったら、4Aを降りられる』というふうに受け止めたいですね。自分の中でここまで来られた、と本人が言っている気持ちはわかるけれども、ただ、そうはいっても公式戦で跳ばないと成功とはならない。会見でも3月の世界選手権に『出る』とは言っていません。そこまで気持ちが固まっていないということでしょうね」
「羽生君は国内ではまだ負けていない」
──会見を受けて、多くのメディアは現役続行を示唆したと報じています。
「それは都合のいい解釈かもしれませんし、羽生君は『試合に出る』とはハッキリ言っていませんからね。ただ、世界のフィギュア界を引っ張ってきた男ですし、僕としてはぜひ現役のうちに成功させてほしいなと思っています」
──今大会では鍵山が銀メダル、宇野が銅メダルを獲得。世代交代をしたとみていいのでしょうか。
「羽生君は今回はあくまで4Aにこだわった。プログラム構成をみると、金メダルのネーサン・チェン選手の方が最終的な得点が上になる形になっていたんですが、まずとにかく4Aの成功があり、そのあとにライバルとの勝負があった。本来、勝負に徹するなら成功していない4Aをプログラムに入れるべきではない。失敗すれば大いに不利になりますからね。僕個人としては、4Aに挑戦した選択は大正解だったと思っています。その一方で、勝負を優先させたのが昨年の全日本選手権。そこでは圧倒的な点数で優勝しています。下の世代が来ているのは間違いないですし、鍵山君や宇野君らが羽生君を超えて伸びていくのが最高の理想ですし、誰でもいつかは下の世代に抜かれる。それがいつになるかはまだわかりません。ただ、勝負という点を見れば、羽生君は国内ではまだ負けていません」
──羽生は現役続行しますか、それとも引退すると思いますか?
「そこは羽生君の気持ち次第ですし、4Aにこだわり続けるかどうかもわかりません。『努力は報われない』とも言っていましたが、これから先、努力したことは絶対に報われますよ。僕としては4Aを成功させてほしい。本当に、あと一歩なんでね」
(次回はワリエワのドーピング違反騒動の話)